プーク人形劇場 新作落語お正月寄席 弁財亭和泉「試食の女王」

プーク人形劇場の「新作落語お正月寄席」に行きました。

「地主への接待」笑福亭羽太郎/「俺の拳」林家やま彦/「土産噺」柳家花いち/「1パーミルの恋人」三遊亭丈二/中入り/「孫の営業」三遊亭わん丈/「試食の女王」弁財亭和泉/「路地裏の伝説」柳家喬太郎

花いち師匠。久しぶりに聴いたけど、面白い。山本さんの家と木村さんの家のお土産合戦。熱海の温泉饅頭には鬼怒川の温泉饅頭。仙台の牛タンには名古屋の手羽先。北海道のスープカレーには北九州の焼きカレー。そして、オーストラリアの木彫りのコアラにはインドのムンバイの木彫りの仏様…。80キロ、350キロ、1000キロ、6400キロと距離が長くなる果てしなく続く御礼のお返しに気づいて、「もう、やめましょう」と切り出す山本さんの奥さん。そして、大変だったと振り返る木村さんの奥さんに拍手喝采!

わん丈師匠。先月のネタおろしからさらに磨きがかかった。定職に就けずにフラフラしていた孫、40歳がようやく太陽光発電の会社に就職できたころを喜ぶ90歳のおばあちゃんが素敵だ。孫の営業成績に一役買おうと契約し、自分の背中にソーラーパネルを乗せて散歩していたら…。「スマホを充電させてください」と寄ってきた女子大学生が、「バズリそう」と言って、おばあちゃんの姿を写真に撮ってSNSにあげた途端に、若者が殺到。孫が「営業成績が全国2位になった」という…。一回100円の充電料金のうち、20円をアイデア料として貰う女子大学生の方がよっぽど営業上手というのが面白い。

和泉師匠。本社からスーパーのちくわの試食売り場に派遣されたヤマグチ君のような若者が今の社会には結構いるのではないか。とても考えさせられる作品だ。ちくわの試食売り場を担当している、この道30年のパートリーダー的なマツモトさんの苛立ちがよくわかる。どうして、頑張って売ろうとしないのか。「大きな声を出して元気よく」「笑顔で親しみを」「こんちくわ!と言うといいわよ」等、丁寧にアドバイスしてあげているのに、それがハラスメントになってしまうなんて。令和の時代は難しい。

店長に呼び出され、マツモトさんが「ちくわの売り上げで実績をあげれば社長賞が貰える」とヤマグチ君のモチベーションアップのために言ったことが、逆にプレッシャーになると言われる。店長研修会でセミナーの講師が言っていた言葉は「はっぱをかけるのはよくない。相手に寄り添うことが大事だ」。グイグイいくのではなく、一緒に問題を解決しようと“寄り添う”。そうすると、相手が寄り添えるかなあと思うかもしれない。その雰囲気を作るのが大切、“ハイパー寄り添うクリエイター”になりなさい、と。いや、本当に令和の時代は難しい。

ヤマグチ君が生配信で「おばさんがダルイんだよね。ちくわを売るなんて、めんどくせい。ここは俺のいる場所じゃない。早く本社に戻りたい」と自分に都合良いことばかり言っている。これにはマツモトさんもキレた。その気持ちが痛いほどよく伝わってくる。

ついに爆発したマツモトさんは“自分のやり方”で寄り添ってやる!と決断。「声が小さいんだよ!」「ちくわを売る気があるのか!」「こんちくわと言え!」。スパルタ式の指導に僕は心から拍手を贈った。ちくわを縦笛にして、「ついて来い!」とヤマグチ君に言って、ミッキーマウスマーチを演奏しながら、店内を一周する姿に感動すら覚えた。

スーパーにいた主婦たちは「帰ってきたのよ!試食の女王が!」「30年前に一世を風靡したトング松本が完全復活よ!」と興奮し、試食コーナーは黒山の人だかり、目標のちくわ400本を見事に完売するという…。ハラスメント、ハラスメントと喧しい世の中に一石を投じた、素晴らしい高座だった。

喬太郎師匠。この昭和テイストが魅力なんだよなあと思う。なんちゃっておじさん、口裂け女、ネッシー、ツチノコ…様々な都市伝説を懐かしく思う。そして、フジカワのお父さんが大事にしまっておいた平凡パンチ創刊号、週刊プレイボーイ、GOROの表紙は竹下景子…。実はあの“風邪ひくなおじさん”は自分の父親だったということが判明した後に同級生たちと居酒屋で飲んだ帰り道、「親父もあの月を見ながら俺たちを注意していたのかなあ」という台詞がロマンチックだ。