三遊亭白鳥 落語の仮面祭り 第八夜~第十夜

上野鈴本演芸場十一月上席八日目夜の部に行きました。今席は三遊亭白鳥師匠が主任で「落語の仮面祭り」と題した特別興行だ。この日は第8話「高座への螺旋階段」だった。

「狸札」三遊亭二之吉/「ナースコール」鈴々舎美馬/ジャグリング ストレート松浦/「浮世床~将棋・本」金原亭馬吉/「怪談長短」鈴々舎馬るこ/浮世節 立花家橘之助/「時そば」柳家小満ん/「マキシム・ド・呑兵衛」蝶花楼桃花/中入り/漫才 ロケット団/「湯屋番」隅田川馬石/紙切り 林家二楽/「高座への螺旋階段」三遊亭白鳥

白鳥師匠の「高座への螺旋階段」。三遊亭花は石神井公園の野外ステージで大成功を収め、月影先生から再び認められるようになるが、過去のスキャンダルがネックとなって、寄席への復帰が叶っていない。

一方のライバル、立川あゆみは真打に抜擢され、独演会は毎回ソールドアウト満席の活躍で、イベンターは武道館の1万人ライブを敢行したいと考えた。そのときに是非、目玉として「夢幻桜」を口演させたいと考え、上演の権利を持つ月影先生にお願いするも、簡単には承諾しなかった。

月影先生の「『夢幻桜』は新作落語がしっかりできる演者でなくてはならない」という主張に、最近は立川あゆみも新作を手掛けているとイベンターは答えると、月影先生は彼女を試す会を開くことを条件にした。その会は三題噺対決。立川あゆみと対決する相手は女流の芸人によるオーディションで決めることにした。

オーディション会場には落語家以外にも、講談師、浪曲師、色物と幅広く応募者が集まった。第一次審査は「露天風呂、生前退位、革財布」の三題噺を書く筆記試験だ。月影先生の「革財布」という罠にはまり、多くの芸人が「芝浜」の改作を書いてきて、失格。

そんな中、三遊亭花の書いた作品は、息子に社長の座を譲る夫に妻が手製の革財布をプレゼント。夫婦仲良く温泉旅行に行く予定だったが、夫に末期がんが見つかる。すると、魂が宿った革財布の化身が現れ、山奥にある万病に効く幻の露店風呂へ案内し、夫のがんが治るというストーリー。月影先生の眼鏡に適う。

第2次審査に残ったのは、花以外に柳亭こみちと講談師の神田黄緑の3人。テーマは毒、オチは「私の切り札」という課題で噺を作れというものだ。こみちは白雪姫のパクリで失格、黄緑も忠臣蔵討ち入りで対抗したが落選。これに対して、花は身勝手な亭主に殺意を抱いた女房が河豚の肝を食べさせて暗殺するというサスペンス仕立ての噺を仕上げ、高く評価される。

なおも花は「もう一つ思い付いた」と言って、沖縄のジャングルでマングースとハブが対決し、ハブが「大工調べ」の啖呵を切ろうとしたら、思わず舌を噛んでしまった…という毒ヘビ小咄を披露。そのアドリブ力、瞬発力で立川あゆみへの挑戦権を勝ち得た。そして、立川あゆみはその報せを聞き、「今度こそ、花に負けない」と己を奮い立たせた…。

上野鈴本演芸場十一月上席九日目夜の部に行きました。今席は三遊亭白鳥師匠が主任で「落語の仮面祭り」と題した特別興行だ。この日は第9話「二人の豊志賀」だった。

「牛ほめ」三遊亭東村山/「アジアそば」金原亭杏寿/太神楽 鏡味仙太郎・仙成/「狸札」金原亭馬吉/「置き泥」鈴々舎馬るこ/浮世節 立花家橘之助/「あちたりこちたり」柳家小満ん/「マキシム・ド・呑兵衛」三遊亭律歌/中入り/漫才 風藤松原/「元犬」隅田川馬石/紙切り 林家二楽/「二人の豊志賀」三遊亭白鳥

白鳥師匠の「二人の豊志賀」。「夢幻桜」を口演できる候補者の権利を懸けて、立川あゆみと三遊亭花が競う三題噺対決落語会が開催される。それぞれが作品を作るのではなく、二人が持ち時間5分で交互にリレーを繰り返し、オチを言ったところで試合は終了。その後、観客がどちらが良かったかを判定するシステムだ。

あゆみは得意の古典落語の世界に引き込もうとするが、花は負けじと新作独特の世界観に染めようと必死になる。その攻防が面白い。三題は「トランプ」「大黒様」「さくら水産」、これをハラハラドキドキをテーマに噺を創作していく。

まず、あゆみが手を挙げた。圓朝の真景累ヶ淵の世界にいきなり持って行く。豊志賀は元は秩父の旅館の娘だったが、博奕に走って勘当され、根津の七軒町で三味線の師匠をやっている。そこへマムシの権蔵という男が訪ね、「お前の父親が作った借金の100両を返せ」と迫る。聞けば父親はトランプ博奕にはまったのだという。もし返せないなら、豊志賀を吉原に身売りすると脅す。困った…。

次は花。豊志賀がいっそ吾妻橋から身投げしようかと考えたが、死ぬつもりになれば何でもできると思い留まる。豊志賀は勘当された後、大坂で盗賊の親分のところに厄介になり、盗人をやっていたことがあり、“錠前破りのさくら”と呼ばれた時期があった。昔着ていた黒装束に身を包み、薬問屋の金蔵の錠前を秘技である魚肉ソーセージを使ってこじ開けた。100両を懐に入れ、高笑いの豊志賀だった…。

続いて、あゆみ。金蔵に置いてあった姿見に映った自分の姿を見て、豊志賀は「何て醜いんだ」と我に返る。二度と盗みはするまいと誓った自分への約束を破ることになる。100両は元に戻して、家に戻った。そして、秩父の実家に帰ることにした。そこには番頭がいた。20年ぶりの再会だ。どうして父親は博奕に狂ってしまったのか。「それはお嬢様のせいです」と番頭が言う。豊志賀に会いたいと、あちこちの博奕場を尋ね歩いているうちに、自分が博奕漬けになってしまった。木乃伊取りが木乃伊になったのだ。祖父が書画骨董の蒐集を趣味としていたが、父親がほとんどを金に換えてしまった。残っているのは、玄関に置いてある瀬戸物の大黒様だけになった。豊志賀も子どもの頃、家の守り神と言って大事に磨いた記憶がある。その晩は実家に泊まった豊志賀が寝ていると、枕元で「起きろ!豊志賀。大黒を動かせ。そうすれば黄金になる」と囁く声が聞こえた。夢のお告げだ!江戸へ行ってこの大黒様を高く売ろうと考えた…。

だが、花はそれでは承知しない。手を滑らせて、大黒様を落として割ってしまった。すると中から祖父からの手紙が出てきた。「金に困ったら地底王国へ行け」。蔵の闇の紐を引くと床が落ちて、豊志賀は地下室へ。巨大ネズミが出てきたので、六尺棒で叩いて退治した。中は鍾乳洞のようになっている。その穴からタコのような謎の生物が現れた。「我々は地底人だ。私は女王のカトリーヌ三世だ」。実はお互いの祖父は義兄弟の契りを交わしていて、豊志賀の祖父から金塊を預かっているという。だから、「その金塊はあなたのものだ」とカトリーヌ三世が言った…。

あゆみの順番だ。地底人たちが金塊が入った箱を運んできた。だが、その箱は鍵がかかっていて、その鍵は木彫りの熊の中に隠してあるという。だが、その木彫りの熊は屑屋に売ってしまったと番頭が言う。鍵が開けられない。そんなとき、芸は身を助く。豊志賀の秘技、魚肉ソーセージのよって箱は開けることができた。これで楽に暮らせる。さくら水産だけに、ホッピーエンド!でサゲ。

三題噺は完結したように思えたが、花が「ちょっと待って!」と言って続ける。カトリーヌ三世の息子のフェルナンデスと豊志賀は結婚する約束になっている。フェルナンデスが豊志賀を迎えに地底王国の入り口に行ったはず、会わなかったか?と訊かれる豊志賀。彼は私のように人間の言葉を喋れない、地底語しか喋れない、チューチューと言っていなかったか?豊志賀は気がつく。巨大ネズミと間違えてしまったのが、フェルナンデスだったのだ。だが、フェルナンデスは優しい。「豊志賀さんに会いたかった。結婚なんてしなくていい。許してあげてください、お母さん!」。これを聞いて、豊志賀の「恥ずかしい。穴があったら入りたい」に、「もうすでに穴に入っています」でサゲ。

これで三題噺対決は終了した。そして、勝敗は80対20で立川あゆみの勝利。月影先生が言う。「花は新作に陥りがちなミスをしました。長すぎるのです」。こうして、「夢幻桜」の口演の第一候補は立川あゆみに決まった。

上野鈴本演芸場十一月上席千秋楽夜の部に行きました。今席は三遊亭白鳥師匠が主任で「落語の仮面祭り」と題した特別興行だ。この日は第10話「走れ元犬 真打への架け橋」だった。

「たらちね」柳亭市悟/「アジアそば」金原亭杏寿/粋曲 柳家小春/「豆屋」金原亭馬吉/「歯シンデレラ」林家きく麿/奇術 ダーク広和/「高野違い」柳家小満ん/「鉄火のお千代」柳亭こみち/中入り/漫才 風藤松原/「王子の狐」隅田川馬石/紙切り 林家楽一/「走れ元犬 真打への架け橋」三遊亭白鳥

白鳥師匠の「走れ元犬 真打への架け橋」。落語協会は三遊亭花の真打抜擢を決定した。だが、師匠である月影先生は「夢幻桜」の口演ができる了見にならないと真打を認めないという。主人公の桜の精の了見、それは植物の了見ではあるが、まずは動物、古典落語の「元犬」の了見を掴むことを命じる。「考えるのではない、感じるのです。自分の命を削ってその了見を知りなさい。それは宇宙を知ることでもあるのです」。花は困惑しながらも、野良犬の了見を知ろうとあがく。

野良犬…それはホームレス…権爺のところへ行けばわかるかもしれないと花は考えた。だが、それは昭和の時代の話で、令和のホームレスは恵まれている、ましてや江戸時代の野良犬の了見とは程遠いと教えられる。権爺は明治に絶滅したオオカミに近いのではないか、オオカミを祀っている秩父の三峰神社に行ったら何かわかるかもしれないとヒントをくれる。

そして、花はチョコレートとペットボトルを持って運動靴という軽装で、かつてオオカミが棲息していたという雲取山を登ることにした。登山途中に激しい雨、雷に遭う。さらに空腹を覚え、チョコレートは食べ尽くし、ペットボトルの水は飲み干してしまった。野宿スタイルで一晩を過ごした翌朝、下山しようとするが、道に迷い、森の中へ。一人ぼっちの恐怖に、自分は死ぬかもしれないという不安に襲われる。「大自然をなめていた…」。

生えていた木苺を食べるが不味い。喉が渇いたので発見した川に近づき、岩陰で水を飲む。川面に映った自分の顔は無表情だった。兎に角、生きるのだ。明日へと命を繋ぐのだと必死になる。美味しい、不味いなんて言っていられない。川の激流に飲み込まれ、溺れそうになったところで、「花ちゃん!」と呼ぶ声がした。必死に腕を伸ばすと、鈴々舎馬角兄さんが助けてくれた。

野良犬の了見がわかった。命を削れという意味も。一人で身を守り、兎に角生きるために、命を繋ぐことの大切さを知った。植物から動物へ、動物から人間へ、そして宇宙へ…すべてが繋がっているのだということを知った。野生の魂は無償の愛なのだ!馬角と花はお互いに心を開き、オオカミのように激しく抱き合った。

やがて、権爺が現れて三人で東京へ戻る。そして、花は月影先生の前で「元犬」を演じた。そこには人間と野生動物が無償の愛で繋がって、仲良くしている姿が見事に描かれていた。月影先生は「素晴らしい!合格です」と褒め讃えた。こうして三遊亭花は真打の仮面をかぶって新たなスタートを切ることになった…。

僕は美内すずえ先生の「ガラスの仮面」は読んだことがないが、そのオマージュとして創作された「落語の仮面」全10話は“ガラカメ”を読んだことのある人は勿論、読んだことのない人でも目一杯楽しめる連続物の落語として成立しているのがすごい。自作の連続物で10日間興行を打つのは三遊亭圓朝以来だという。偉業の達成に心から拍手を贈りたい。