百栄てきぃーら!! 春風亭百栄「ステルス弁当」、そしてけんこう一番!三遊亭兼好「佐々木政談」
「百栄てきぃーら!!~春風亭百栄独演会」に行きました。「片棒」「ステルス弁当」「やかん泥」「キッス研究会」の四席。開口一番は桂枝平さんで「カナダからの手紙無筆」だった。
百栄師匠の「ステルス弁当」は一度掛けたきりで、久しぶりの蔵出しだそうだ。理由は「あまりにもくだらないから」とか。でも、その“くだらない”を徹底しているところが面白かった。
アメリカCIAとイギリスMI6の日暮里合同庁舎が舞台で、トム・クランシーの愛妻弁当を同僚のフレデリック・フォーサイスが羨ましそうに見ているが、その弁当にはある秘密の情報がこめられていた…。実はフレデリックはトムの妻のソフィアと浮気をしており、二人が密会する場所が弁当に隠されていたのだ。プチトマトが蒲鉾の脇にあったときは蒲田、お新香の脇にあったときは新小岩、ご飯の上だったときは五反田、錦糸玉子の脇だったときは錦糸町…まさか駄洒落で暗号化していたとは!
フレデリックの誕生日には、鶏肉と野菜の甘辛炒め朝鮮風…タッカルビ。これはフレデリックの出世作の「ジャッカルの日」をもじったもの。でも、夫のトムをスリペクトしているときもあるという。赤いタコさんウインナーを食え…レッド・オクトパスを食え…「レッドオクトーバーを追え」。沼の深いところで収穫した蕗の煮物…沼底にある蕗…「今そこにある危機」!強引な駄洒落を恥ずかしそうに言う百栄師匠が面白い。
トムとフレデリックのランチタイムに、イアン・フレミング局長がやって来た。「ジュームス・ボンド」シリーズを弁当のおかずに結び付けるのも面白い。長野の里芋の塩茹で…信濃のヤツガシラ…「死ぬのは奴らだ」。紅しょうがを牛丼屋から心をこめて持ってきた…吉野家から愛をこめて…「ロシアから愛をこめて」。福島の温泉にでも行くかな…湯は会津に限る…「ユア・アイズ・オンリー」!徹底的に駄洒落に徹した“くだらなさ”を臆面なく繰り出す高座で大いに笑った。
「けんこう一番!~三遊亭兼好独演会」に行きました。「饅頭こわい」「一分茶番」「佐々木政談」の三席。ゲストはテルミン奏者のクリテツさん、前座は三遊亭けろよんさんで「高砂や」だった。
「佐々木政談」。桶屋の綱五郎の十一歳になる息子、四郎吉の利発さが身上の噺。佐々木信濃守の問答に対し、物怖じせずに当意即妙に答えるところが見せ場だ。奉行所に出頭し、信濃守に対面すると、「お奉行様はそうやって高いところに威張っていられるから、案外簡単な仕事ではないか」と言って、自分も同じ高さのところに座らせてくれと要求するところなど、肝が据わっていて、その場にひれ伏している家主はじめ町役人五人組よりも人間が大きいのがすごい。
饅頭をくれる母親と小言をくれる父親のどちらが好きかと訊かれ、咄嗟に三方の上の饅頭を半分に割り、「お奉行様はどちらの饅頭が甘いと思いますか?」と問い返すところなど、あっぱれである。
残念だったのが、「四角いのになぜ三方なのか」「二人なのに与力」に留まり、「与力の身分は?」と問う部分がなかったこと。起き上がりこぼしを懐から出し、「身分は軽いけど、お上の威勢をかさに着て、ピンシャンピンシャン立ちます。そのくせ、腰が弱い」。さらに「与力の心は?」と問われ、穴あき銭を結び付けて「このように銭のある方へ転がります」。お上を皮肉るこの部分が僕はこの噺の肝、町人文化である落語の真骨頂だと思うからだ。これがないと単なる口が達者な男の子の噺になってしまう。十五歳になった四郎吉を信濃守が取り立てて、四郎吉が大岡越前守の優秀な側近(池田大助とする説もある)に出世し、弛んでいた武家社会を厳しく取り締まったという逸話の前日談として面白いと思うのだが。