春風亭一之輔独演会「二番煎じ」

春風亭一之輔独演会に行きました。「啞の釣り」「馬の田楽」「二番煎じ」の三席。開口一番は春風亭貫いちさんで「浮世床~本」、食いつきは春風亭いっ休さんで「替り目」だった。

一之輔師匠の「馬の田楽」。田舎の長閑な田園風景とそこに暮らす人々ののんびりとした人柄が伝わってくる。大根の種も畑の土も黒いから途中で種蒔きをやめたらわからなくなっちゃうとか、三州屋と三河屋の屋号が似ていて無精して四角を丸にしてしまって取り違えたとか。子どもがメンコ遊びに飽きて馬の腹の下で鬼ごっこしたとか、耳の遠い茶店の婆さんに馬が通らなかったかを訊ねると「秋らしくなった」やら「昔は何人もの男を泣かせた」やら頓珍漢な答えが返ってくるとか。

一番笑ったのは話の長い爺さんで、自分と女房と五十を過ぎてから生まれた娘の三人家族がきょうは畑の草取りをしなくてはならないが、明日は休みにするので女房と娘は芝居見物に行くが、自分は釣りに行く…釣りで一番大事なことは天気で、明日は晴れるか雨降るか、はたまた曇るのか…延々喋った挙げ句、空を見上げていたから「馬は見かけなかった」。馬の行方を探して慌てている辰んべの苛立ちが目に見えるようで可笑しい。

「二番煎じ」。皆で温まりましょうと酒を番小屋に持ち込んだ黒川先生に対し、月番さんが叱責するが、「瓢箪の中の酒は駄目だが、土瓶から出る煎じ薬ならいい」。宗助さんは猪の肉を葱と一緒に持ち込み、「鍋は背負ってきました」。寒い冬のお勤めゆえ、こんな余禄でもないとやっていられない庶民のささやかな楽しみが活写されていて好きだ。

月番さんが一の組5人を囲炉裏に集めて、声をひそめて「お疲れ様です!我々の力で火事から町を守りましょう!」と宣言して、煎じ薬という口実のもと密やかな酒宴を開いていることを正当化しているのが可笑しい。

猪の肉は初めてという黒川先生は、一口食べると「美味しい!早速、娘に買いに行かせます」と興奮し、夢中でパクパク食べて駄句をひねるのが面白い。番小屋で鍋をつついて火の廻り。木枯らしや猪鍋の音ゴトゴトと。(笑)

伊勢屋さんは肉は苦手なので葱を頂く、葱は本来辛いものだが、煮るとこんなに甘くなる、トロッと口の中で溶けるのが堪らない、だから堅い葱は好きじゃない…と色々喋りながら、実は「葱と葱の間に肉を挟んでいる!」と指摘されるのが可笑しい。「明日はあんこう鍋にしましょう!」。

都々逸で、騒ぐ烏に石投げつけりゃそれでお寺の鐘が鳴る~。黒川先生がまた一句。猪鍋を食べておかしくもありシシシッシ!鍋に集いワイワイガヤガヤと賑やかで愉しそうなのが良い。

見廻りの役人も洒落のわかる人物で、「なかなか良い煎じ薬だ」「口直しが良いと煎じ薬が進むのう」。それゆえ、サゲの「二番を煎じておけ」が効く。一足早い冬の噺を堪能した。