扇辰・喬太郎の会 柳家喬太郎「品川発廿三時廿七分」、そして渋谷らくご しゃべっちゃいなよ

扇辰・喬太郎の会に行きました。入船亭扇辰師匠が「小間物屋政談」(ネタおろし)と「死ぬなら今」、柳家喬太郎師匠が「品川発廿三時廿七分」(ネタおろし)と「えーっとここは」、開口一番は入船亭辰ぢろさんで「元犬」だった。

喬太郎師匠の「品川発廿三時廿七分」、前回に「お若伊之助」の続編として「一中節門付け」をネタおろししたが、今回はさらにその続編である。

横山町の生薬屋の娘、お若と一中節の師匠、伊之助はお若が双子を産み落とした後も男女の仲を許されなかった。伯父の高根晋斎の監視の許、お若は根岸で尼のような暮らしをしていたが、伊之助と再会を果たし密会を重ねていた。だが、書生がこのことに気づき、お若は伊之助に「連れて逃げてほしい」と懇願、伊之助の育ての親が神奈川で百姓をしていることから、そこへ駆け落ちしようと横浜行きの最終列車に乗るために新橋駅で落ち合う約束をした。

伊之助が泊まっていた木賃宿の上州屋に女が訪ねてくる。果たして、お若であった。事情を訊くと、叔父の高根が勘づいたようなので隙を見て出て来たのだと言う。二人は一緒に新橋駅に向かい、20時20分発の横浜行きに乗ろうとしたが、直前で扉が閉まってしまった。「文明は情がないな。1分、2分も待てないのか」。仕方なく次の汽車、21時10分発を待つことにしたが、誰かが追ってくるようでびくびくだ。そこで、20時55分発の赤羽行きに乗って品川に出ることにした。新橋よりも品川の方が逃れるのに良いだろうという判断だ。

はぐれないように手を繋いでいたが、そこに火事を知らせる鐘が鳴り、「火事だ!」と叫んで逃げ惑う人々でごった返した。人混みに紛れて、二人は離れ離れになってしまった。お若は「いのさーん」と呼ぶが、まるで返事がない。

そこに遊び人風の男が現れる。品川の遊郭で遊んでいたが、この火事に乗じて、銭を払わずに出てくることができ、「おいしい思いをしたぜ」と呟いている。だが、「女と言えば、根岸のお嬢様には敵わない」。この男は元大工で高根の道場に出入りしていたが、そのときにお若に岡惚れしたのがばれて、出入りできなくなってしまったのだった。「今でも顔がちらつく。なびきもしないだろうが、抱きたい」と思っている。

火事騒ぎが収まった。お若は伊之助を探すが、いない。「私を置いて、神奈川へ行ったのかしら?」。お若は23時27分発の横浜行きに乗って、今夜のうちに神奈川へ出ようと考え、切符を求めた。そこに男が現れ、「お嬢様では?下根岸の高根先生のところのお嬢様ですよね?」と声を掛ける。否定をするお若。だが、男は「見間違うわけがない。若い娘がこんな時間にどちらへ?」。新橋と答えるが、嘘を見抜かれる。「神奈川の切符を買っていましたよね。こんな遅い時間におかしな話だ。一人では危ない。あっしが一緒についていきますよ」。

お若は「どうしても行かなきゃいけない用があるんです」と突っぱねるが、男は「どんな男に絡まれるか判らない。世間知らずのお嬢様をあっしが守りますよ…それとも、神奈川にレコが待っているんですか?」。さらに「高根の先生から姪を連れ戻してくれと頼まれているんです」と口から出まかせを言う。お若は無視をして、人混みに紛れ、汽車に飛び乗った。

汽車は動き出す。「良かった…けど、良くない」。24時、神奈川に着いた。だが、やはり伊之助はいない。初めての土地、宿はどこにあるのかさえ判らない。すると、さっきの男が「お嬢様、探しましたぜ」と現れる。「なんで、ここまでついてくるのですか?」「叔父さんに頼まれたんですよ」。男は内心、「こんないい女は滅多にいない、ものにしてやろう」と思っている。腕を掴んで強引に引き寄せる。「やめてください!」とお若は抵抗し、無我夢中で逃げる。

すると、ドーンと突き当たったのが地元の爺さんだ。ぶつかった拍子に提灯の火が消え、マッチで蝋燭に火を点ける。「どうしたんだい?娘さん」。お若は「この人だったら、助けてくれるかもしれない」と思い、伊之助とのことを話す。すると、「その頼っているという男はわしかもしれない。ばあさまと二人で伊之助を育て、東京で一中節の師匠になったと聞いておる」。

その爺さんは甚兵衛と言って、事情を理解して親切にしてくれた。「家に来なせい」。そこへ例の男が「俺のタマを取るんじゃねえ!そいつは女郎を足抜けしてきた女だ。店に連れ戻すんだ」と邪魔に入った。すると、甚兵衛は「お前は勘太ではないか!村で悪さして出て行って、とんでもない野郎だ!」。勘太という名の男は甚兵衛の息子だったのだ。甚兵衛は勘太を振り払い、お若を匿ってくれた。

一方、伊之助は品川ではぐれた翌朝、汽車に乗って神奈川へやって来て、お若と再会を果たす。そして、24年間、畑仕事に精を出して幸せな夫婦生活を送った。岩次という男の子にも恵まれた。だが、その後にお若と伊之助の運命は再び狂い始めるのだった…というところで、終わった。三遊亭圓朝作「離魂病」はまだ続く。

配信で渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」を観ました。若手4人が新作ネタおろしをする会。レジェンド枠で三遊亭丈二師匠が「極道のバイト達」を演じた。

「ロマンスの神様」昔昔亭喜太郎

落語が趣味という彼氏がプロポーズしてくるかと思ったら、「入…」「入籍?」「入門したい」と言う。真打になるまで15年かかる、年収30万円、これでは結婚できないので別れたいと言われてしまう。彼女は「一人口は過ごせないが、二人口は過ごせる」と言って、抵抗するが…。結婚指輪の代わりに六文銭というのも可笑しかった。

「噂の看板娘」柳家やなぎ

テレビが食いつくネタの傾向を皮肉った快作だ。北千住にある昔ながらの定食屋さんの看板は100歳でレジに立つヤエコさん。だが、実はヤエコさんはテレビ取材があるときだけ対応する偽り。それを悔しがる厨房で頑張っている99歳のカズコさんが悔しがるという構図が可笑しい。そこで、カズコさんは昔のツテを頼って、赤坂の高級中華店でオーナーシェフとして働くが、テレビ局の反応は「大衆性に欠ける」でボツ。今度は新橋の丼屋を一人で切り盛りするが、「リアリティがない」と今度もテレビ局が見向きもしない。ましてや歌舞伎町のコンセプトカフェ、30分4000円をや…。やなぎさんのセンスが光った一席。

「個室にて」立川寸志

舞台は地下鉄のトイレの個室。お尻洗浄機能を堪能する男が面白い。強弱のボタンは当然強を押し、パワフルボタンがあればこれも押す。これは押しボタン式の信号のボタンが点灯していても押すのと同じ、いわば“祈り”のようなものだという表現が良い。さらに、温水機能に言及し、「温泉の露天風呂」のようだと喜ぶ。だが、このお尻洗浄機能が一旦故障して温水が止まらなくなってパニックとなる。一転して、天国から修業、いや戦闘に。男の独り言で貫くことに面白さがある。

「あおくさ」春風亭昇羊

何の作業をしているのか、ニラを切るハマモトとアヤという男女の会話の妙。アヤさんがニラを切るリズムが「与作になっちゃった」とか、「私、帽子が似合うからクリスマスのシフト入れられちゃう」とか、可愛い。ハマモトが指を切ってしまい、アヤさんが絆創膏をしてあげると、それだけで「この娘、絶対俺に気がある」と思い込むハマモト。それはまさしく青春だ。ニラの青臭さに引っ掛けたサゲも鮮やかだ。