be on Saturday 寄席のプリンセス 殻を破る~落語家・蝶花楼桃花

朝日新聞のbe on Saturdayで「寄席のプリンセス 殻を破る 落語家・蝶花楼桃花」を読みました。

桃花師匠は師匠小朝に似て話題作りの上手な噺家である。プロデュース能力が高いと言い換えてもいい。7月の31日間連続独演会、しかも毎日ネタおろしという挑戦は自己の技芸向上を図ったものであると同時に、落語を知らない人たちに対して、蝶花楼桃花という噺家の存在ばかりか落語という大衆芸能の魅力を発信したという意味で大きな効果があったと思う。

31日間連続独演会の意義について桃花師匠はこんな風に述べている。

落語って、入り口というハードルが高い業界なんですよね。私も遅くから聞き始めたタイプですから気持ちはわかるし、どれだけ下げられるか。今回、寄席の深夜帯での落語会を提案しました。毎日やってる寄席の緩いところが失われずに、ライフスタイルに合わせた時間帯や構成で落語をしていかないと、今後はきつい。マイナーな自覚はめちゃくちゃありますから、だからこそ来たら絶対面白いのもわかってますから。以上、抜粋。

なるほど。寄席定席は昼の部が12時スタート、夜の部が17時スタート。どの時間に入っても、どの時間に出ても良いが、その匙加減が初心者にはわからない。ホール落語にしても、18時半とか19時スタートがほとんどで、普通のサラリーマンが行くには難しいという現状がある。

31日間連続独演会では、21時スタートで休憩なしで1時間20分。これは新しいスタイルの落語会の提案である。桃花師匠がこう説明する。

深夜帯でコンパクトにネタおろしと既存のネタ、さらに後輩を聞いてもらう。昼間の2、3時間やる独演会とはまた違ったタイプで、休憩もなしにしての満足度を考えたつもりなので。以上、抜粋。

そして、毎日がネタおろしという課題を自分に課したことの意味については、こう語っている。

もちろん落語だけで来てもらえる芸人になりたいですけれども、私を見にいこうという動機をなんか作れないかなって。今回も、もちろん中身も頑張りましたけど、ネタおろしという危ないものを毎日やる、その挑戦に関して共鳴してくれる人がいる。落語だけの面白さだけじゃなく、私の高座から出るもので、何かを持って帰ってもらえるような芸人になりたい。以上、抜粋。

そうなのだ。蝶花楼桃花の落語を聴くだけでなく、蝶花楼桃花のドキュメントを見てもらう。そこに31日間連続独演会の意義があったと思うし、これからの落語界における新しい形の“落語の在り方”に対するプレゼンテーションだったような気がする。

桃花師匠は去年、女性芸人だけで番組を組む「桃組」という公演を寄席定席の10日間興行で成功させた。また、後輩の噺家(男女問わず)のプロデュースも積極的におこなっている。そのことについては、こう語る。

ドラッグストアの隣にドラッグストアを出すと、どっちももうかるって聞いたことがあります。後輩たちが活性化すれば、私の得でもあるし、映画を見たことない人はいなくても落語を聞いたことない人はたくさんいるじゃないですか。そういうものを少しずつ突破していくために、私ができることがそれだった。以上、抜粋。

これらの取り組みを通して、落語界の風通しが良くなってきたことは確かだと思う。31日間連続独演会でのネタおろしでは、半分が新作だったが、その作者の中にお笑い芸人の2丁拳銃の小堀裕之さんやいとうあさこさんがいるのも、落語界を狭い特殊な世界にしないという見識の顕われのようにも感じた。落語界はこの10年で大きく変わったと桃花師匠が言う。

私が入ったとき、女性落語家は「着物につくから化粧なんかすんな」だったので、すっぴんでした。いまは「化粧した方がいい」みたいな。以上、抜粋。

そして、目指す噺家像をこう語る。

おばあちゃんになるまで落語をやりたいと思っているので、長い噺家人生で一年ずつ階段が上がっていくような、ライフワークになるものをつくっていきたい。どうつくっていくか、そこを楽しみにしています。以上、抜粋。

師匠小朝は大銀座落語祭をプロデュースしたり、六人の会を立ち上げたりしたことで、落語界の活性化に大きく寄与した。今後、多様性が激しく叫ばれる時代に落語はどのようなエンターテインメントになっていくのか。蝶花楼桃花のこれから先の挑戦に期待したい。