劇団☆新感線「バサラオ」

劇団☆新感線44周年記念興行「バサラオ」を観ました。

新感線の舞台のこの独特の魅力って、いったい何だろう?と考えたときに、今回のパンフレットで演出のいのうえひでのり氏が御挨拶の中で書いた一文で得心がいった。以下、抜粋。

令和の時代の若者には信じられないかもしれないが、僕ら昭和三十年代生まれの小学校低学年時代には、町のちょっとした広場や学校の運動場なんかに映写機を持ち込み、臨時のスクリーンを張って映画の野外上映会が行われていた(ほら、あの映画「ニューシネマパラダイス」みたいなの)。もちろん暗くならないと上映できないから上映は夜。近所の子供たち、おじちゃん、おばちゃんが続々と集まってくる。地べたに新聞紙やゴザを敷いてベタ座り。夜なんで、光をめがけて集まってくる虫を団扇なんかで追い払いながらの上映会だ。ちょっとしたお祭り気分。アイスキャンデーを齧りながら臨時スクリーンに集中する。そして映画が始まる。ワクワク、ドキドキ。僕らは町の広場から、一気に映画という虚構世界に誘われる。(中略)

思えば僕はずっと、あのドキドキや興奮を求めて芝居を作ってきたように思う。お客さんをびっくりさせたい!ワクワクしてもらいたい。お客さんとお祭り気分を共有したい。やはりそれが原点であり、また終結点ではないか。以上、抜粋。

時代劇の派手なチャンバラと歌って踊ってのミュージカルがミックスされたような舞台に心が弾み、胸が躍る。なるほど、あれは僕が小学生だった頃に地元の公園で観た屋外映画上映会のときのワクワク、ドキドキと同じだ。そう言われてみると合点がいった。

で、今回の「バサラオ」。作者の中島かずき氏の御挨拶を読むとアイデアがどのように生まれたかがよくわかった。以下、抜粋。

そこで浮かんだのが、望月三起也の「ジャパッシュ」だ。小学生のとき、「週刊少年ジャンプ」の連載で読んだときから好きだった。主人公の日向光は、自分の顔の美しさを武器にのしあがり独裁者になろうとする悪人だ。それを阻止しようと対立するライバルはいるが、とにかくこの日向というキャラの強さが印象的な作品だった。

「顔のいい男がその美貌を武器にこの世を支配しようとする」。このモチーフがとても魅力的で、堂々自分でもそういう物語をやれないものかと考えていたし、以前、(生田)斗真くんに話したこともあった。自分の美貌を武器に己の欲望を貫く。世界の中心にいるのは自分。自分の美のためにはすべての人間を利用する。そんな悪い男を描いてみたい。そんな斗真くんを見てみたい。(中略)

時代は南北朝に決めた。この時代は裏切り裏切られの連続だ。佐々木道誉のように、婆娑羅という独特な美意識に動く大名たちもいた。派手な芝居が作れる。「ジャパッシュ」に敬意を表して主人公の名はヒュウガにした。以上、抜粋。

面白い。作者と演出家のクリエイティブの源がともに小学生の原体験なのだ。つまり、子どもの頃にワクワクしたこと、面白いと思ったことは大人になっても忘れちゃ駄目で、そうした無邪気な遊び心を大切にすることが如何に肝要であるかを示しているように思う。

これは全てのエンターテインメントに携わる人々に共通して言えることなのではないか。僕の大好きな落語や講談の世界でも新作に限らず、古典も含めて面白い演者の方々は子どもの様に無邪気な遊び心に溢れた創作をしているように思う。「大人げない」と躊躇ってはいけない。文化芸術というのは常識を覆すような発想が大事なんだなあと改めて感じた次第だ。