浅草演芸ホール九月上席 林家つる子「子別れ~お徳編」

浅草演芸ホール九月上席千秋楽夜の部に行きました。主任が林家つる子師匠の芝居も千秋楽。「子別れ」を熊五郎の女房だったお徳を主人公に描いた、つる子師匠オリジナルのお徳編だった。

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つる子師匠の「子別れ」。“遊郭ごっこ”で花魁道中をして遊んでいたという亀吉をきつく叱るお徳が印象的だ。亀吉が「お父っつぁんのこと、まだ気にしているのか?おいらだって知っている。吉原の女と一緒にいるんだろ…気にすることないよ。おっかさんの方がずっといい女だぜ!花魁というのは選ばれた女性しかなれないんだ。どうせ、お父っつぁんのところに来た女は部屋持ち程度だよ」と気遣うところ、可愛い。

「お父っつぁんに会いたいかい?」とお徳が訊くと、亀吉は「お父っつぁんは悪い人でしょ。おっかさんのことを泣かしていたもの。悪い人には会いたくない」。すると、お徳は「お前のお父っつぁんは悪い人なんかじゃない。泣かされていたけど、そんなこと思っちゃいけない。お父っつぁんは良い人だ。ただ、お酒が良くなかった。これだけは忘れちゃいけないよ」とするところに、熊五郎への愛情が残っていることが感じられるのが良い。

母子二人で堪えなければいけないときもあった。亀吉が眉間に傷を負って帰ってきたときだ。「どうしたんだい?」「遊んでいただけだい」「そんなことはないはずだ。誰にやられたんだい?言ってごらん」「子ども同士のことだから」「子ども同士のことに親が口を出すのは当たり前だよ。今日という今日は文句を言わせてもらう」。すると、亀吉は泣きながら「小林さんの坊ちゃんにやられた」と答える。お徳は一転して「痛いだろうけど我慢しなさい。ごめんね。世話になっている小林さんを失ったら、母子二人で路頭に迷うんだ」。お徳も泣きたいくらい悔しかったろう。

亀吉の帰りが遅くて心配していたら、帰ってきた亀吉の拳固から50銭がこぼれ落ちた。「貰ったんだい。知らないおじちゃんに貰ったんだ。御礼を言わなくていい知らないおじちゃんに貰ったんだ」と言い張る亀吉だが、母親としては心配になる気持ちがよく伝わってきた。「あそこの家はお父っつぁんがいないからこんな子に育った。そう言われないように一生懸命に育ててきたんだ。今からなら遅くない、私も一緒に行って謝ってあげるから」と息子の盗みを疑ってしまう。「盗ったんじゃないやい!」と主張する亀吉に対し、玄翁を持ち出し、「これはおっかさんが打つんじゃない。お父っつぁんが打つんだ」。

亀吉が意を決して「お父っつぁんから貰ったんだい!会ったことも言っちゃいけないと約束したから…」。それを知らされたお徳は「どうせ酔っ払って、汚い格好でふらふらしていたんだろう」と訊くと、亀吉は「お酒はやめたんだって!綺麗な半纏何枚も着ていたよ。吉原の女も叩き出したって。お父っつぁん、カッコ良かったぜ!」。カッコ良かったぜ!という台詞に息子の気持ちがこもっていて良いなあと思った。

翌日の鰻屋。店の前を入ろうか、入るまいか迷って、行ったり来たりしているお徳に魚屋のおばあちゃんが声を掛ける。「亀ちゃんのためにも行ってあげた方がいい」と言われたお徳。「あの人のこと、まだ許していないんです。あの人のしたことを許していない。また同じことになったらどうしようと思って」。そのときの魚屋のおばあちゃんの台詞がいい。「いいんじゃない?許さなくって。夫婦だもん、許せないことの一つや二つあるわよ。どこの家もそうよ。言わないだけ。でも一緒にいる。不思議なものよ」。

さらに続ける。「あんた一人でもやっていけると思う。周りの皆が助けてくれるから。だけど、ちょっとでも会いたいと思ったら、行った方がいい。うまくいかなかったら相談に来なさい」。さらに言いたいことがあると加える。「あなた、もしかして、駄目な男の面倒を見るの、好きなんじゃない?そういう女の人、いるのよ。私もそう」。この台詞がお徳を後押ししたのかもしれない。

そして、鰻屋の二階。亀吉が「また三人で一緒にご飯食べようよ!」と言うと、熊五郎は「勝手なことを言っているのは承知の上で言うが、また三人で暮らすわけにはいかないか?俺なりに一生懸命頑張ったつもりだ。許してくれとは言わないが…」。すると、お徳は「許さない!許すわけないだろう!…でも、お前さん、変わったね。出会った頃の熊さんの目をしている…待ちくたびれたよ」。

これで親子三人は再出発をできると思う。そう確信できる、「子別れ」だった。