SWA奇譚
SWAクリエイティブツアー「SWA奇譚」に行きました。
「僕への手紙」春風亭昇太/「パラノーマルハウス」柳家喬太郎/中入り/「さとみ」林家彦いち/「飛脚の源治」三遊亭白鳥
昇太師匠の「僕への手紙」。主人公にある日、30年前に卒業した小学校の同窓会の案内状が送られて来た。文面には卒業の際に埋めたタイムカプセルを掘り起こすとある。まずい!と主人公は思った。そのタイムカプセルには写真や文集と一緒に男子が悪戯で「嫌いな女子の名前を書いたカード」が入っているからだ。実は主人公は同級生のミカと結婚したのだが、あのときに「ミカは新沼謙治に似ているから嫌い」と書いていたのだった。
そこで同窓会より先にそのタイムカプセルを掘り起こして、情報を改竄してしまおうと思い付き、実行へ。果たしてタイムカプセルの中から嫌いな女子カードを見つけ出した。それと一緒に当時「未来の自分へ」宛てた手紙が出て来た。その手紙を読み進めると、「僕はクラスでも成績が下から3番目だから、きっと良い会社にも入れず、出世もできず、収入や地位も低いだろう。だけど、そんな自分を他人と比べて卑下したり、嫌いになったりしないでほしい」と書いてある。その文面に胸が熱くなった。そして、手紙の最後には「僕はミカちゃんが好きだ。新沼謙治に似ているけど、目がぱっちりしていて可愛い。結婚したい」と書いてあったのだ。ああ、あの日に帰りたい…ノスタルジックなとても良い気分になる素敵な創作だ。
喬太郎師匠の「パラノーマルハウス」。新婚のミユキは夫と一緒に新築の一戸建てに住み始めた。共働きで、料理も苦手で、どうしてもコンビニ弁当で夕食を済ましてしまうのだが、夫はこれを責めたりしない。寧ろ大歓迎だという。そんな夫婦に超常現象が次々と起こる。玄関のチャイムが鳴ったが誰もいなかったり、帰宅すると部屋の中が散乱していたが何も盗まれていなかったり、真夜中に水を飲もうとキッチンに行くと、ラップが使い途中になっていたり、庖丁を研ぐ音が聞こえてきたり…。
夫は「気のせいだよ」と落ち着き払おうとするが、ミユキは怖くて仕方がない。ある日、ソファの上にあったクマのぬいぐるみが突然ミユキに喋り出した。それは亡くなった母の亡霊だった。母親は結婚したばかりのミユキに「伝え残したこと」があってやって来たのだという。娘のために書いたレシピの置き場所が判らずに部屋中を散らかしたこと、コンビニ弁当の食べ残しはちゃんとラップに包んでおきなさい、包丁は研がないといけないよ…。そう、超常現象の原因は母の亡霊の仕業だったのだ。その話を聞いて安心したミユキだが、母親は何もしていなのに庖丁を研ぐ音が…。最後をホラーで終わらせるところに、喬太郎師匠の手腕を感じる。
彦いち師匠の「さとみ」。妻に先立たれたマサルは娘のサトミと二人暮らし。最近は会社にAIが侵食してきて自分の居場所を失っていると嘆き、「俺はAIになる!」と言い出す。そんな“OK!お父さん”が祭りに行こうとサトミを誘い、出掛けるが、サトミは父親が惣菜屋の女将さんに惚れていることを知っていて、できれば再婚してほしいと思っている。
祭りに行く途中で惣菜屋に寄って、思い切って女将に告白しちゃいなよ!とサトミは父親をプッシュする。マサルも乗せられて「今度一緒に屋形船で一杯やりませんか」と誘い、プロポーズまですると、女将の返事は何とOK!サトミの誘導でマサルの恋は成就したのだった。そして、帰宅するとサトミが家にいる。え!?そう、さっきまで一緒だったサトミはロボットの二代目サトミだったのだ!AIに支配されていることを闇雲に嫌がるのではなく、AIをアルゴリズムのツールとして有効に活用すればいいのではないか。そんな教訓を残してくれた高座だった。
白鳥師匠の「飛脚の源治」。神田須田町の飛脚屋、兎屋で働く町飛脚の源治はある男に「この木箱を甲府の寺に届けてほしい」と依頼される。いわくつきの仕事で、「中を見てはいけない。珍しくて高価なものだ。呪われている品だ。見ると不幸になる」と脅される。
源治は中を見たくて仕方がないが、甲府までの道中、弁当を遣ったお稲荷様の前で、ついに我慢しきれなくなって箱の中を見てしまう。中には石が入っていて、実はその石は…。宿の主人の「人魚の木乃伊ではないか」という推測や、江戸を立つ前に手紙を届けた先の根津七軒町の豊志賀、そして甲府の寺の坊主実は長州の密偵が複雑に絡んで事態は思わぬ方向へ。白鳥師匠お得意の荒唐無稽、破天荒なストーリー展開が愉しい一席だった。