春風亭朝枝「宮戸川」通し、そして立川流特選落語会 立川こしら「火焔太鼓」(上)(下)

「朝枝の会~音曲噺の世界」に行きました。春風亭朝枝さんが「のめる」「宮戸川」「明烏」の三席。「宮戸川」は音曲入りで通し公演ということで伺った。開口一番は柳家しろ八さんで「金明竹」だった。

朝枝さんの「宮戸川」通し。後半のお花が強姦される部分を控えめにされた印象だった。陰惨で生々しい正覚坊の亀の回想がポイントだと思うのだが、そこはあまり強調されていなかったのは、昨今のコンプライアンスへの配慮だろうか。それと、前半部分を終えて「お花半七馴れ初めでした」と一旦頭を下げたのはいかがなものかと思った。折角の通し口演、そこで中入りをとるわけでもないのに、残念だった。

船宿の梅本の一人娘のお花と茜屋半左衛門の息子の半七の婚礼は梅本の側は賛成だったが、半左衛門が烈火の如く怒り、半七を勘当してしまう。そのため、霊雁島の叔父さんが父親代わりになって夫婦となった。そして両国横網町に小間物屋を開き、夫婦仲良く暮らしていた。

お花が先祖の墓参りに行くと言う。生憎、半七は所用があって同行できないので、小僧の定吉を伴につけた。半七は家で芝居評判記を読みながら腕を枕に横になった。(多分、ここからが夢だと聴き手に後で思い出させるための描写だろう)

墓参りの帰り道、雨が降ってきた。お花は定吉に傘を調達させに行かせ、一人で雨宿りをしていたが、雷鳴があり、お花は目を回して、その場に倒れてしまう。そこを男二人が通りかかり、お花を見つけ、口移しで水を飲ませてやり、お花は正気に返る。男の一人がお花のことを「小網町の船宿の梅本の娘だ」と知っていて、送りましょうと声を掛けるが、お花はじきに傘を持って小僧が来るからと拒む。すると、男たちは豹変し、お花に目隠しをし、猿ぐつわをはめ、お薬師様の石置場へと運ぶ。「お前は仁左さんだね!」と叫ぶお花に対し、「喧しい!静かにしろ!しっぽり俺と濡れてくんねえ」。ここは鳴り物入りの芝居台詞だ。

定吉が戻ってきたが、お花がいない。その場にいたいざりの男が「男二人に連れていかれた」と教えてくれる。店に戻って、半七に報告、店の者が手分けでお花を探したが行方知らずのまま何日も経ってしまった。消息を絶った日を命日と定め弔うことにした。

一周忌の法要を終えた半七は山谷堀から船で帰ろうと、猪牙を誂える。そこへ正覚坊の亀という泥酔した男が「兄貴!俺も乗せてくれ」とやって来る。船頭の知り合いらしい。船頭は断るが、半七が酒の相手に好都合だとこれを許す。亀が「男っぷりもいいし、なりもいい。さぞ昨夜はもてたんでしょうね」と言うと、半七は「寺で法要の帰りです」。半七が「何か乙な話でも聞かせてください」という頼みに、亀は「一つだけなら、それらしい話があります…去年の今頃だ」と始める。

本所で博奕でスッテンテンになった帰り、土砂降りの雨に遭った。雷も鳴る。門の前に女が倒れていた。一緒にいた相棒が口移しで水を飲ませると、「この女は梅本という船宿の娘。言い寄ってふられたことがある。その腹いせをしたい」と言って、俺に銭を渡して「行ってくれ」と言う。とんだ貧乏くじですぜ。その先はわからない…。

これを聞いた半七は「これで様子がカラリと知れた」。鳴り物入りで芝居台詞。お花が男に強姦され、そのまま宮戸川へ投げ込まれたのだった。本来は三人で輪姦された筋だが、内容をやわらげたのだろう。ここまでの夢を見ていた半七を起こすのはお花で、「私も定吉もすでに戻っている」という。

お花と定吉が墓参りに行って雨に降られ、定吉が傘を取りに戻った、というところまでは夢ではないらしい。それも含めて夢の方が分かりやすいと思うのだが、いかがだろうか。それと、お花が強姦される場面が地語りと正覚坊の亀の回想の二回出てくるのも、くどいばかりか噺を複雑にしている気がした。ネタおろしなので、これから整理して演じられるのを期待したい。

立川流特選落語会に行きました。立川こしら師匠が「火焔太鼓」(上)(下)ネタ出し、(上)(下)ってどういうことだろうと興味津々で伺った。

「たらちね」立川談声/「あくび指南」立川談洲/「精霊馬」立川志ら鈴/「青菜」立川左平次/中入り/「真田小僧」立川らく人/「火焔太鼓」(上)(下)立川こしら

こしら師匠の「火焔太鼓」(上)(下)。どこまでが(上)で、どこからが(下)なのか、明言していないので推測だが、甚兵衛さんが三太夫から300両貰ったところまでが(上)で、それ以降が(下)だろう。

(上)で、時代がついていて儲からなかったのは小野小町と小野妹子の揃いの腰巻というクスグリを入れていたが、それが(下)の伏線になるとは思わなかった。こんな太鼓、「クルド人も見向きもしない」という表現は師匠志らくを彷彿させるギャグだなあと思った。

それと、甚兵衛さんがお屋敷に太鼓を持って行くとどうなるか?という女房の妄想が面白い。殿様の隠密に消されてしまう。その隠密の中で若い女性がいて、名前は修羅と言うのだが、「人を殺すことに疑問を持ったら生きていけない」と自分に言い聞かせているというのがもの悲しい。それで、女房が人質に取られて油がグラグラ煮えたぎる釜に入れられそうになるんだけど、シグレ君という隠密との間に恋愛感情が芽生えて救い出してくれるというのも可笑しかったが、これまた(下)の伏線になっているとは。

300両を手にした甚兵衛さんは帰り道、厩橋で身投げしようとしている母娘を見つける。助けてあげたいと、300両と小野小町の腰巻を渡して逃げるように去っていく。「変な男が逃げていくぞ!」と騒ぎになるが、橋の下に住む乞食に出会い、「何があったのか」を訊かれて答えると「命があればいいじゃないですか」と説得される。そのときに御礼に小野妹子の腰巻を渡す。

帰宅すると、当然女房と大喧嘩、「儲からなかったとなぜ素直に言えないの?」。息子の金坊を連れて女房は出ていってしまう。ふさぎこむ日々が続き、女房子を江戸中探し回る。すると、金坊を発見!後をついて行くと、女房のお崎は隠密のシグレ君と暮らしていた!おお、ここで繋がるとは。

すると、「殿様が橋の上で母娘に300両渡して助けた者を探している」という噂が広まる。殿様は褒美を渡したいと言っているという。手がかりは小野小町の腰巻。これと揃いになっている腰巻を持っている人物はいないか?橋の下で暮らしていた乞食が名乗りをあげ、小野妹子の腰巻を見せる。鑑定家は「間違いない」とお墨付きを与える。小野妹子は身体は男でも、心は女性だというLGBTだったという…。

乞食は“腰巻大尽”と呼ばれ、困っている人に金を恵んでやり、貧乏人の味方になった。だが、腰巻大尽は不安な日々を過ごしていた。あれは道具屋から貰ったもの、自分が偽物だとばれたらどうしよう…、そうだ!本物を探そう!そして、甚兵衛さんが見つかった。「なんで名乗り出ないのですか?」と問うと、甚兵衛さんは「私は自分のことしか考えていない。あなたは世の為人の為に働いている。お陰で皆が幸せになっている」。そして、腰巻大尽にお願いする。「金坊を陰に日向に支えてやってください。私は独りで生きていきます。本当でも嘘でも、皆が幸せならいいんだ」。

ある日、甚兵衛さんの道具屋に若い男女が訪ねてくる。「箪笥を見せておくれ」「ここに25年ある、いい箪笥ですよ。下から三番目に抽斗が開かないんです」。「水瓶を見せておくれ」「安いのには理由があるんです。実は洩るんです」。火焔太鼓が売れる前と同じフレーズを繰り返す甚兵衛さんを見て、男が「久しぶりだな。俺だよ。金坊って言ったらわかるか?おっかさんには止められているのだけど、今度女房を貰うことになったから…」。感激の再会である。そして、その金坊の女房になるというお嬢さんが言う。「借りたものを返しに来ました。小野小町の腰巻です」。おお、ここで繋がるのかあ!

立川こしら、ここにあり!こしら師匠の凄さを再認識した高座だった。