新宿末廣亭七月下席 神田伯山「鍋島の猫騒動」

新宿末廣亭七月下席二日目夜の部に行きました。今席は三遊亭遊雀師匠と神田伯山先生が交互に主任を勤めるネタ出し興行だ。伯山先生は①お岩誕生②鍋島の猫騒動⑤小幡小平次⑥お紺殺し⑨雨夜の裏田圃。きょうは「鍋島の猫騒動」、場内を暗くして幽太も最後に出る演出もあって盛り上がった。

「和田平助」神田若之丞/「屏風の蘇生」神田鯉花/ウクレレ漫談 ぴろき/「蛇含草」桂鷹治/「恋してコチコチ」三遊亭王楽/コント 山口君と竹田君/「真田小僧」三遊亭遊馬/「三婆物語」国本はる乃・沢村道世/漫談 ねづっち/「天野屋利兵衛 雪江茶入れ」神田松鯉/中入り/漫談 清野茂樹/「指定校推薦」春風亭昇々/「死ぬなら今」柳家蝠丸/太神楽曲芸 ボンボンブラザース/「鍋島の猫騒動」神田伯山

伯山先生の「鍋島の猫騒動」。龍造寺家は鍋島家の主君筋だったが、その主従関係が逆転して鍋島家の下に龍造寺家がある構図になってしまったという歴史的背景を強調した演出にしてあるので、この怪談を大変興味深く聴くことができた。

鍋島丹後守光茂と龍造寺又七郎が“待ったなし”で囲碁を始めたにもかかわらず、光茂が「待ってくれ」と頼み、又七郎が「この勝負が戦場であれば…」「武士に二言はなきかと…」と主人に歯向かったのが発端だ。カチンときた光茂は又七郎を斬り殺してしまう。だが、このことが露見すれば御家断絶となってしまう…。光茂は家来の小森半左衛門に命じ、死骸を土壁に塗り込んで隠してしまう。

又七郎の母は息子の帰りが遅いので心配する。そのとき、飼い猫のタマが血まみれ、土まみれになった又七郎の片袖をくわえて現れる。嫌な予感が走る…。翌日に屋敷に行って問い質すも、「又七郎は駕籠に乗って帰った」の一点張りで埒が明かない。家に戻ると行燈の灯に照らされた又七郎が現れ、「母上殿、龍造寺家は元は主君筋…なのに私は光茂に斬られた…仇を討ってください」と言う。又七郎の左肩先がざっくりと斬られている。そして、又七郎が消えても、座っていた座布団は血でぐっしょりと濡れていた…。

母は飼い猫のタマに「私の血を吸って、化身となっておくれ。頼んだぞ」と言って、自らの喉を短刀で貫く。血しぶきがあがる。それをタマはペロペロと舐めた。以後、光茂は体調がすぐれない。又七郎の亡霊にうなされ、気がふれてしまう。その様子を見た小森半左衛門は気晴らしに桜見物の宴を催した。

光茂の気分も晴れやかになったが、桜の木の上に黒い大きな物体を見つける。それは黒い猫で、光茂に襲い掛かった。「また又七郎の仕業か!」。猫の眉間を斬りつけたが、猫は逃げる。それを小森が槍で突くと、猫の右太腿を刺した。「あの猫は又七郎の化身だ!猫を追え!捕まえろ!」。だが、見失ってしまう。

小森が血の跡を辿っていくと、自分の住む屋敷に着いた。中間の繁二郎とともに猫を探す。縁の下を見たが、猫は見つからず、人の頭の骨だけが見つかった。「屋敷にもぐずりこんでいるのではないか」。出てきた母親に尋ねると、「猫は見ておらぬ。安心いたせ」。だが、母親は紫鉢巻をして、右足を引きずっている。偶然か?「母上、何かあったら倅の名を呼んでください」。

屋敷の者に訊くと、母親は好きな野菜ではなく、魚ばかりを食しているという。九つ(午前0時)の頃に魚を食べる音が聞こえるという。「母が化け猫に?」。小森は障子を開けると、母親はすやすやと寝息を立てて寝ている。「杞憂か」。踵を返そうとしたとき、母親が布団から半身起き上がって、耳をピクピクとさせ、ニャーと鳴きながら、魚を食らっている。

「化け猫!母上をどこへやった?」「何じゃ?」「貴様は化け猫だろう!正体を顕せ!」。すると、ハハハと高笑いして、「よくぞ、見破った。わらわは龍造寺家の猫の化身じゃ。母は泣いて叫んでおった。半左衛門、助けてくれと。頭からガブリと噛みついて食べたときのむせび泣く声を倅に聞かせてやりたかったわい」。

最後に化け猫が言った台詞が怖い。「鍋島に必ずや七代にわたり祟ってやる。龍造寺は鍋島を決して許さぬ」。主従が逆転してしまった歴史の悪戯に翻弄される鍋島家の物語。全部読むと10時間かかるそうだ。その後どうなっていくのか。続きが聴きたくなった。