鈴本演芸場七月上席 三遊亭わん丈「寿限無の夜」、そして落語わん丈「喪服キャバクラ」

上野鈴本演芸場七月上席八日目昼の部に行きました。史上最速で三遊亭わん丈師匠が主任を勤めるこの興行も残すところ三日だ。ここまでの演目は①ねずみ②お見立て③匙加減~花魁の野望④井戸の茶碗⑤近江八景⑥幾代餅⑦明烏。そして、きょうは「寿限無の夜」を熱唱してからの「壺算」だった。

「道灌」柳家小じか/「シウ論」三遊亭ごはんつぶ/奇術 ダーク広和/「犬の目」三遊亭歌武蔵/「熊の皮」柳家勧之助/音楽 のだゆき/「鰻屋」古今亭菊丸/「テレビショッピング」三遊亭天どん/漫才 すず風にゃん子・金魚/「愛宕山」春風亭一之輔/中入り/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「紙入れ」五明楼玉の輔/「芝居の喧嘩」春風亭一朝/浮世節 立花家橘之助/「寿限無の夜」~「壺算」三遊亭わん丈

わん丈師匠、トリのネタとしては「壺算」は短いと思ったのか、最初に尾崎豊の♬15の夜の替え歌、♬寿限無の夜を歌う。元ロックバンドのボーカルだけあって歌は上手いし、落語の「寿限無」のエッセンスを巧みに取り込む才能に感服するばかりだ。

「壺算」。買い物上手の兄ィの作戦その1。俺は小さい時分に爺さんに育てられた、その爺さんが今わの際に「酒が飲みたい」と言った、1円を握り締めて酒屋に行ったら酒屋の店主が「1円50銭からビタ一文負からない」と売ってくれなかった、そして爺さんは酒を飲めずにあの世に逝った…。それ以降、50銭負けない店に爺さんの幽霊が出るんだ。もしも迷惑がかかるといけないと思うから言っておくよ…。これにはそれまで「負けない!」の一点張りだった瀬戸物屋も負けてしまうよね。

一荷入り下取りの件。先に渡した3円と下に取る一荷の甕3円、合わせて6円だよね!例えばの話、これにさらに3円俺が出すと、9円になってしまうよね?だから3円を払うのはおかしいよね?6円でいいんじゃないの?これに対し、瀬戸物屋が「あなた方がいるときは合うんです。でも、帰った途端に合わなくなる!あなた方が『いいの、買ったね!と』と唱えるのが恐怖の旋律に聞こえて、あいつらに騙されて帰しちゃいけない!ともう一人の自分が叫ぶんです!」。混乱の極みの瀬戸物屋が愉しい。

最後に兄ィが寓話を出して追い打ちをかける。大富豪が17頭のラクダを長男に1/2、次男に1/3、三男に1/9相続することになったが、割り切れないので通りかかった和尚の乗ったラクダを加えて18頭にして配分したら、9+6+2=17で上手くいった!今度は11匹の羊を長男に1/2、次男に1/3、三男に1/6相続することになったが、割り切れないので通りかかった羊飼いの1匹を加えて12頭にして配分したら、6+4+2=12匹!羊飼いに返すことが出来ない!

「問題を増やさないでください!初めてなんです、金と甕を足すの!」。客席までも巻き込んで混乱に輪をかける話術の巧みな兄ィはわん丈師匠自身に通じるところがあって、とても愉しい高座だった。

夜は日本橋に移動して、「落語わん丈~三遊亭わん丈独演会」に行きました。「近江八景」「開帳の雪隠」(ネタ卸し)「喪服キャバクラ」の三席。ゲストは桂銀治さんで「思ひ出」、開口一番は柳家ひろ馬さんで「好きと怖い」だった。

銀治さんの「思ひ出」、「試し酒」などの作者で知られる落語作家の今村信雄先生が先代古今亭今輔師匠に贈った作品だそうだ。ある女房が古着屋に中古の着物を買い取ってもらうのに、一つ一つの着物に結婚して間もなかった頃の亭主との思い出がこみあげてきて、安く買い叩かれるのが嫌になり、ことごとく引っ込めてしまうという…。その女房の思い入れが落語の世界で言うところの“一人気違い”で面白いというのもあるが、それと同時にその女房の気持ちも判らないではないなあという共感もあって、とても良い作品だと思った。

銀治さんはこうした珍品ネタが大好きだそうで、これを聞いたわん丈師匠が「じゃあ、近江八景と交換しよう」ということになったそうだ。9月の「落語わん丈」ではわん丈師匠による「思ひ出」が聴ける。これも楽しみだ。

「喪服キャバクラ」、寄席でも出来るように改良を加えたそうだが、発想自体が面白いので受け入れられると思う。いわゆるコンセプトキャバクラで、店内が葬儀場という設定だ。客は参列者で、相手をする女の子が遺族、料金は香典ということになることから可笑しい。

落語会の打ち上げの二次会でわん丈師匠と一緒に来店(いや、参列?)した前座さんが「僕は押しが強い女性は苦手だから、こういう静かな女性が相手してくれる方が良いかも」。ちなみにタイプの女性は木村多江という…わかる、わかる。「亡くなった父とはどういう関係で?」「お父さんが勤めていた会社の社長なんです」と言った会話で遊ぶのも楽しいかも。お酒は勿論、乾杯ではなく献杯。煙草の火は蝋燭で点けてくれる。ちょっとお触りをすると、「四十九日も過ぎぬのに…」。

故人を偲んで歌うカラオケ、履歴を見ると「なごり雪」「涙そうそう」「さよなら」…。女の子が「私には父親の思い出があまりないのです…父のために歌ってやってください」。ちあきなおみの♬喝采が流れ、わん丈師匠が歌う!♬喪服の私は祈る言葉さえ失くしてた~。きょうは昼夜でわん丈師匠の熱唱を聴いた。