一之輔の珍しきはご馳走なり 春風亭一之輔「あやとり」

「一之輔の珍しきはご馳走なり 其の弐」に行きました。春風亭一之輔師匠が2012年10月に開催された「一之輔の無茶ぶられ2」でネタ卸しした作品を12年ぶりに演じると聞いて出掛けた。「明烏」を桃月庵白酒師匠と橘家文蔵師匠(当時文左衛門)が色々と注文をつけて、その注文に沿って一之輔師匠が改作を披露するというもので、そのときには「明達磨」とう演目名が付いた作品だが、今回久しぶりに蔵出しするにあたって、「あやとり」と改題された。

対談 一之輔×鯉昇/「夏泥」春風亭一之輔/「千早ふる」瀧川鯉昇/中入り/「あやとり」春風亭一之輔

一之輔師匠の「あやとり」。とても心温まる展開に感激した。時次郎が十歳のときから始まる。源兵衛と太助に苛められたお花に時次郎は「一緒に遊ぼう」と優しく声を掛ける。お花が「優しいね」と言うと、時次郎は亡くなった母親に「人には優しくしなさい」と言われていたからだというのが、まず良いなあ。

最初はあやとりをしたが、時次郎が不器用でうまくいかない。それで“だるまさんがころんだ”を二人でやった。しばらく遊んでいると、お花の姿が見えなくなってしまった。お花の家に行っても、お花だけでなく、お花の家族もいなくなっていた。必死になって町中探したが、お花は見つからなかった。

それから10年が経った。二十歳になった時次郎が稲荷祭りから家に帰る。煮しめが美味しかったので、強飯を13杯おかわりしたというと、父親は心配して、もっと世間を知ってほしい、本ばかり読んでいないで、吉原に遊びに行きなさいという。二階に上がった時次郎は良い子の時次郎から豹変、「うるせいな、クソ親父!」と叫ぶ。そこに源兵衛と太助がやって来て、稲荷祭りで乱暴狼藉を働いた時次郎に皆が弱って大変だったと報告に来る。

そうなのだ、時次郎は乱暴者なのだ。それにはきっかけがある。お花の家が日向屋に莫大な借金を抱えてしまい、それを許さない父親はお花を売り飛ばしてしまったのだ。そして、一家も町を離れた。そのことが判って以来、時次郎は親父の言うことを聞かなくなった。家で良い子を装っているのは、死んだ母親に済まないと思うからで、家の外では乱暴を働き、番頭がその尻拭いをしているのだった。

源兵衛と太助が吉原に女郎買いに行こうと誘いに来る。時次郎は酒と博奕はやるけれど、女郎買いは一切やらないことにしている。これもお花への済まない気持ちがあるからなのかもしれない。源兵衛が「隣町の連中が日向屋の時次郎は女を知らない腑抜けだと言っている」とけしかけても動かない。そこで、お稲荷様で乱暴を働いたら、祟りがある。吉原の女郎はお稲荷様の狐と同格だから、お稲荷様にお詫びに行こうと誘い、時次郎も「それなら」と乗った。

実は源兵衛たちには作戦があった。ある大見世でお職を張っている浦里花魁は実はお花で、時次郎にお花に会わせたかったのだ。茶屋の座敷で源兵衛たちが盛り上がっている脇で、牛乳をチビチビ飲んでいる時次郎に、花魁の部屋へ行くように誘導するが、時次郎は「金で女を買うなんて最低だ!俺は行かない!」と意地を張っている。すると、遣り手のお米婆さんが御巫女頭に扮して、「稲荷祭で乱暴を働いて、稲荷大神宮がお怒りです!沙汰を下します」と強引に時次郎を二階の角部屋へ押し込めた。

そして、その部屋に現れた浦里花魁。時次郎は不貞腐れて、布団も背中合わせに寝ていたが、浦里がおもむろにあやとりを始める。気づく時次郎。「お花?」「時次郎ちゃん!」。時次郎は10年前の父親の心無い仕打ちを済まなく思い、「すまなかった。勘弁してくれ」と謝る。浦里も「もういいの。私こそ、黙って逃げてごめんなさい。会えて良かった!」。感激の再会を二人は喜ぶ。良い話だ。

翌朝、源兵衛と太助が時次郎の部屋を訪ねると、時次郎は浦里と「一晩中、遊んでいた」「?!」「一緒に遊ぼう!」。だるまさんがころんだを二人は続けていたのだ。なかなか捕まらない浦里だが、わざと時次郎に捕まる。「捕まえてくれてありがとう」「俺は身請けするまで、指一本も触れないよ…達磨だけに手も足も出さない」。幼馴染の時次郎とお花の純愛物語に昇華した改作に拍手を送った。