談吉イリュージョン 立川談吉「ゆかり姫」、そして集まれ!信楽村 柳亭信楽「学校へ行こう!」
配信で「渋谷らくご 談吉イリュージョン」を観ました。春風一刀さんが「最後の晩餐」という新作落語を演じた後、立川談吉さんが新作落語「ゆかり姫」をネタおろしした。
談吉さんの「ゆかり姫」、独特の世界観のあるファンタジー落語だ。お爺さんが山で竹の中から一人の女の子を見つけ、お婆さんと一緒に縁(ゆかり)と名付けて育てる。成長とともに、顔つきが人間離れしてきて、大きな鼻と丸っこい耳が特徴の「可愛い動物」のよう。家に偶然あった「鳥獣戯画」を参照すると、それはコアラであることが判る。
見惚れるような美しさは、“絶世のコアラ”で、近郷近在から見に来る人が絶えず、見終わった後はうっとりとしてしまうことから、「コアラ姫」とまで呼ばれた。お爺さんとお婆さんは柔らかい葉と木の実を与え、コアラ姫は18時間睡眠を摂り、大事に育てられた。
あるとき、突然にコアラ姫が「お別れの時が来ました」と告げる。遠い遠い南の国、オーストラリアに帰らなくてはならないという。彼女は「コアラ絶滅の危機」を救うという使命を課せられていたのだった。
やがて、無数のコアラの群れが神輿を担いでやって来た。「お迎えに参りました」。「お爺さん、お婆さん、今までありがとうございました」とコアラ姫は礼を言い、神輿の上に乗り、闇にとけていった。
やがて、空から金粉を撒き散らしながら、一本の巻物が落ちて来た。そこにはコアラ姫からのメッセージが書かれていた。「私は人間のお手洗いが使えなかった。そのために裏の繁みで用を足していました。それを掃除してください」。下世話な言い方をすれば、糞の処理のお願いだ。だが、そこは絶世のコアラのこと、お爺さんとお婆さんが裏の繁みに行くと、それは金銀財宝の山だったという…。
談吉ワールド、ここにあり。素敵なファンタジー落語だった。
「集まれ!信楽村~柳亭信楽勉強会」に行きました。「学校へ行こう!」「百川」「変身」の三席。開口一番は玉川き太さんで「寛永三馬術 愛宕山 梅花の誉れ」、曲師は玉川鈴さんだった。
「百川」はネタおろしだが、上々の出来栄え。百兵衛さんの憎めない可愛さが良く出ていた。信楽さん自作の鉄板ネタ「変身」を鈴さんの三味線に乗せて、浪曲風にした演出、面白かった。鈴さんの即興が勿論素晴らしいのだが、信楽さんが節とまではいかないが浪花節の唄う感じに徐々になっていくのがすごいと思った。こういうフレキシブルなことが出来る芸人を尊敬するなあ。
だが、きょうの一番の収穫は新作「学校へ行こう!」。高円寺ノラやで新作おとぎ六人衆のメンバーが月替わりで三題噺に挑んでいるのだが、この噺は「大谷翔平」「不適切」「ふんどし」の三つのお題で信楽さんが創作したものだ。今まで聴いてきた信楽さんの新作とは一味も二味も違う作品で良い意味で鳥肌が立った。
タカシくんが不登校になってしまい、毎日学校帰りにクラスメイトのあかりちゃんが宿題のプリントを持ってタカシくんの家を訪ね、心配している。応対するタカシくんのお母さんもあかりちゃんに感謝している。学校でいじめに遭っているのではないか、と考えたお母さんはあかりちゃんを家に招きいれ、事情を聞く。
お母さんが一番気がかりだったのは、毎日持ってきてくれるプリントに「豚の糞」とか、「犬の糞」とか、「死ね!」という言葉が落書きされていたこと。あかりちゃんが持ってきてくれるときには書かれていなかった。その理由を訊くと、クラスのキダくんたち男子が後出しペンで落書きして、タカシくんが受け取った後にその酷い言葉が浮き出るようになっているのではないかとあかりちゃんは言う。
きっかけはタカシくんのお祖父ちゃんがお祭りで褌一丁になっている写真が新聞に載ったこと。以来、タカシくんは「ふんどしのふん!ふん!ふん!犬の糞!鳥の糞!」とクラスメイトから苛められるという。お母さんはあかりちゃんに御礼を言って、帰ってもらった。そして、そんな辛い目に遭っている息子を不憫の思い、母親は「もう学校なんか行かなくていいから」と優しい言葉を掛ける。
一人で自分の部屋にひきこもっているタカシくんの前に「馬鹿フン!」と罵る小人が現れた。タカシくんが憧れているメジャーリーガーの大谷翔平選手のポスターから飛び出してきたのだ。その小人は「お前の心が作り出した大谷翔平だ」という。そして、タカシくんに言う。「世の中には恵まれていなくても努力している奴がいっぱいいるんだ。俺だって、才能に恵まれていると思うかもしれないが、いっぱい努力してきたんだ。お前はなぜ行動しないんだ?努力しないんだ?行動し、努力すれば、状況は変わる。心の毒虫を駆除しろよ」。
タカシくんは大谷翔平から勇気をもらい、翌日から学校に行くことにした。「フンが来た!」「臭いぞ!」「あっち行け!」と苛めるキダくんを、タカシくんは思い切りバットで叩きのめした。教室は大騒ぎだ。先生が駆けつけ、救急車がやって来て、キダくんは運ばれた。クラスの女の子が「怖かったね」と騒ぐ中、あかりちゃんが最後に言った言葉とは…。
途中、ひきこもりのタカシくんが立ち直るハートウォーミングなストーリーなのかと思ったら、急転直下、まさかのホラー落ちにゾッとした。