三遊亭青森の髪結新三を聴く会

三遊亭青森の髪結新三を聴く会に行きました。「髪結新三」を中入りを挟んで、(上)と(下)に分けて演じた。開口一番は柳家ひろ馬さんで「孝行糖」だった。

二代目紀伊國屋文左衛門の番頭だった庄三郎が暖簾分けして、白子屋を開業して繁盛したが、六十を過ぎて病の床に就き、盗賊が入ったことも重なり、元深川芸者だった女房のおつねが苦しい経営の切り盛りをしている。そんな中、長男の庄之助は吉原遊び、博奕等にうつつを抜かして勘当同然にしてしまう。娘のおくまに婿を世話して貰い、700両の持参金とともに又四郎という男がやって来るが、おくまは手代の忠七と深い仲になっており、又四郎を相手にしないという白子屋の内部事情が、この噺の根底にある。

出入りの新三という髪結が、おくまの隙を狙って“忠七に宛てた手紙”を手に入れると、これを手立てに忠七に駆け落ちを唆す。おくまもその気になり、今晩和国橋で落ち合って、新三の住む深川富吉町に匿ってやると二人を誘い出す。おくまお嬢様は駕籠で先に新三宅へ向かわせ、忠七と新三は雨降る中、相合傘で歩いて行く。新堀のところまで行くと、強い雨。新三は一人で傘を差して先に行ってしまう。「待っておくれ、私はあなたの家への道も知らないんだ」と忠七が言うと、新三は豹変する。

「お前さんはどこへ行くつもりだい?泊まる約束をした?寝ぼけたこと言うな。おくまは俺の情婦(イロ)だ。お前をダシに使ったまでよ」。そういうと、新三は下駄で忠七の額を殴り、すたすたと行ってしまった。額から流れる血に、ただ茫然とする忠七だった。

翌日。白子屋はお嬢様が新三に拐かされたと大騒ぎに。お嬢様救出の命を受けた車力の善八だったが、新三の家に行くも、持参した10両を「こんな目腐れ金!」と新三は鼻にもかけない。お嬢様は猿ぐつわをはめられ、押し入れに閉じ込められている。きっと新三の慰みものになっているのだろう。

善八の女房が弥太五郎源七親分に助けてもらえばいいと提案する。悪い奴には悪い奴に任せればいいというわけだ。源七の家には勘当された白子屋の若旦那、庄之助が居候している恩義もある。善八が源七に頼みに行くと、「恥をかきに行くようなもの」と渋ったが、おかみさんの「行ってあげたらどうだい?」という鶴の一声で承知をしてくれた。雌鶏勧めて雄鶏時を作る、だ。

源七と善八が深川富吉町の新三宅を訪ねる。源七が10両を出して、「お嬢様を傷をつけずに渡してくれ。俺に花を持たせてくれ」と頭を下げるが、新三は「向うから連れて逃げてほしいと言い寄ってきた」と言い張り、「わがままな女だから、縛って押し入れに閉じ込めている」。

源七が「きょうのところは俺に花を持たせてくれ。そうしないと、どの面下げて白子屋に行けばいいんだ。他の者なら兎も角、この源七が来たんだ」と説得するも、逆に新三は「俺は上総無宿の髪結新三だぞ。てめえにへこまされる新三じゃない」と凄む。さすがの源七も「これだから嫌だと言ったんだ。小僧っ子相手に喧嘩する顔じゃない。知った風な口をきいたことを忘れるな!」と言って退散してしまった。

この様子を聞いていた家主が源七に近づく。「私が掛け合う。恩を嵩に着て、言い聞かせる」と言う。それには10両だと足りない、30両用意してほしいと頼む。そして、家主は新三宅へ。買ったばかりの初鰹を見つけ、「いくらしたんだ?」と訊くと「三分二朱」「豪気なもんだな」。そして、早速に白子屋お嬢様を解放してやれとばかり、「金に転べ。いくらなら手放す?」と新三に問うと、「500両だ」と法外なことを言う。

「30両じゃいけないか?」「30両に負けちまえ」としつこく家主が説くと、新三は「俺は上総無宿の髪結新三だ!」と凄む。すると、家主はその台詞を逆手にとって、「ふざけるな!その無宿者を店子にしてやったのは誰だ?俺は家主の長兵衛、俺の口の利き方ひとつでどうにでもなるんだ!」と逆に新三をやりこめた。ついに、新三を30両で納得させたのだ。そして、「鰹の片身を貰いたい」。

しばらくすると、迎えの駕籠とともに善八が30両を持ってやって来た。お嬢様は駕籠に乗せて、白子屋へ送る。30両を渡された家主は、新三に「5両、5両、5両で30両。鰹は片身、持って行くぜ」と言って、15両しか渡さない。それは約束が違うと新三が指摘するも、家主は同じフレーズを繰り返し、引き下がろうとしない。「店を空けるか?それとも15両で納得するか?」。ついに、新三は根負け。15両を受け取ろうとすると、「待て。5両は店賃に貰うよ」。家主の完全勝利だ。新三は源七から10両受け取って了見した方が良かったわけだ。一番ずる賢かったのは、家主なのかもしれない。

このことが世間の噂になると、新三の評判が上がり、源七は馬鹿にされた結果となり、悔しい思いをした。新三は博奕の帰り道、閻魔堂橋で待ち伏せしていた源七に襲われる。「新三!命をもらいたい!」。カッコ良い芝居台詞の後、二人の立ち廻りを三味線音楽と附けの効果音とともに、青森さんがアクションで見せたのが素晴らしかった。「新三、思い知ったか!」。歌舞伎の「梅雨小袖昔八丈」のラストシーンを彷彿させる演技力が光っていた。