鈴本二月中席初日 林家正雀「一文笛」

上野鈴本演芸場二月中席初日夜の部に行きました。今席は主任が林家正雀師匠で「正雀噺の世界」と銘打ったネタ出し興行だ。①一文笛②左の腕③水神④親子茶屋⑤らくだ⑥御神酒徳利⑦男の花道⑧中村仲蔵⑨双蝶々⑩笠と赤い風車。きょうは桂米朝作の「一文笛」だった。大喜利の風流吹き寄せ踊りも良かった。

「転失気」林家十八/「ぞろぞろ」林家彦三/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「狸札」春風亭柳枝/「一目上がり」入船亭扇遊/奇術 ダーク広和/「下町せんべい」柳家小ゑん/「棒鱈」三遊亭歌奴/中入り/漫才 ニックス/「鮑のし」春風亭一朝/粋曲 柳家小春/「一文笛」(桂米朝作)&風流吹き寄せ踊り 林家正雀

正雀師匠の「一文笛」。スリの名人、ヒデの自慢話がまず面白い。ある旦那の煙草入れに目を付け、茶店に誘い、「私はスリだ。あなたの煙草入れはモノが良いので、スリ仲間が大勢狙ったが、あなたに隙がないのでどうしても抜けない。そこで私が抜く権利を3円で買った。だが、隙がないので抜けない。そこで、仲間に自慢したいので、内緒で10円で譲ってほしい」と頼む。旦那は「そこまで見込まれたなら、お売りしましょう」と譲って、ヒデが去ると、旦那は懐の財布がないことに気づく…。「仕事というのはこうしてやるんだ」と得意気なヒデ、なるほど名人だ。

「掏られて困る人の懐は狙ったことがない」のが自慢のヒデに対し、すでにその世界から足を洗った兄貴分が「じゃあ、なんであんなつまらないことをしたのだ?」と問い詰めた。つまらないこととは…。

駄菓子屋で子どもたちが一文笛を買って吹いて遊んでいる。その傍で物欲しそうにしている貧乏な家の子どもが見ている。駄菓子屋の婆さんは「貧乏人はあっち行け!お前が買えるわけないだろう!」と追い払う。その様子を見ていたヒデは自分の子どもの頃を思い出し、可哀想に思って、駄菓子屋から一文笛を抜いて、その子どもの懐にそっと入れてあげた。良いことをしてあげたと思った。

ところが、懐の一文笛に気づいた子どもは嬉しくなって、ピーッと吹いた。すると、駄菓子屋の婆さんはこれに気づき、「泥棒!盗んだね」と言って、その子どもを連れて、その子の家に駆けこんだ。母は亡くなっていて、元侍の父親と二人暮らし。その子どもは「盗んだんじゃないや!」と叫んで、そのまま井戸に飛び込んだ。近所の人たちが助けて、一命は取り留めたが、目を覚ましていないという。

兄貴分はヒデに対し、「たった一銭か一銭五厘の笛。なぜ、買ってやらなかったんだ?」と問い詰める。ヒデは「すまないことをした。もう、スリはよす。堅気になる」と誓い、その証拠に右手の二本指を切り落とした。

あの子は生きちゃいるが、目を覚まさないという。名医だが貧乏人は診ない高木先生に無理を言って診てもらったが、「すぐに入院すれば助かるが、このままだと命はない」。入院するには30円かかる。長屋連中の金を集めても、30円にはならない。貧乏が情けないと泣いているという。

高木先生は往診の帰り、近くの酒屋で飲んでいると聞いたヒデは早速、その酒屋に行った。そして、兄貴分のところに戻ってきた。「今回ばかりは見逃してくれ、兄貴!あの子を助けたいんだ」。ヘベレケに酔っていた高木先生から50円を抜く仕事をしてきたという。兄貴分が訊く。「お前、右手の二本指をばらして、よく仕事ができたな」「実は俺、ギッチョなんだ」。人情噺テイストだが、サゲはいかにも落語という名作。とても良かった。

一席終わった後、お囃子の太田その(唄)、柳沢きょう(三味線)、林ふみ(三味線)の三師匠が高座で弾き唄いをして、正雀師匠が踊る“風流吹き寄せ踊り”。吹き寄せの名の通り、色々な音曲をミックスさせた10分ほどの演奏に合わせて、踊るものだ。正雀師匠の踊りもさることながら、太田その師匠の喉が素晴らしかった。