冬に聴く龍玉噺九選 蜃気楼龍玉「大坂屋花鳥」

上野鈴本演芸場一月下席九日目夜の部に行きました。今席は蜃気楼龍玉師匠が主任で「冬に聴く龍玉噺九選」と銘打ったネタ出し興行だ。①ずっこけ②夢金③穴泥④鰍沢⑤木乃伊取り⑥お直し⑦らくだ⑧火事息子⑨大坂屋花鳥。最終日の「大坂屋花鳥」を聴いた。

「たらちね」隅田川わたし/「幇間腹」桃月庵黒酒/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「動物園」蝶花楼桃花/「時そば」古今亭菊太楼/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「堀の内」五街道雲助/「元犬」隅田川馬石/中入り/漫才 ニックス/「節分の鬼」三遊亭天どん/粋曲 柳家小春/「大坂屋花鳥」蜃気楼龍玉

龍玉師匠の「大坂屋花鳥」、しっかりと聴かせてくれた。番町に住む400石取りの旗本、梅津長門は友人に誘われ、吉原の大坂屋で遊び、相方になった花鳥花魁と相思相愛となる。ヤクザ者の蝙蝠の忠藏を介して屋敷を博奕場として貸すようになり、奉公人が一人減り二人減りするうちに、老夫婦二人きりになってしまった。その上、金廻りが悪くなり、親から譲り受けた長屋も手放す有り様。暮れの26日に叔父の内藤守善に無心に行くと、「馬鹿者!よくも梅津の家名を汚したな」と切腹を命じられる始末。逃げるように梅津は去る。

木枯らしの中、花鳥のことが忘れられず、梅津は頭巾を被って吉原に向かう。その途中、坂本の通りで大店の旦那風の男と幇間が歩いているのが見えた。二人の会話から、「花魁に100両、店に100両」の都合200両を懐に入れて遊びに行くところであることが判った。大音寺前の暗闇で梅津は金欲しさに二人の間に入り、「卒爾ながら、100両拝借したい」と言うと、「泥棒だ!」と叫ばれ、梅津は旦那を後ろから斬り殺した。幇間は慌てて逃げた。「素直に出せばよいものを。馬鹿な奴だ。気の毒だったがな」。

その200両を懐に、梅津は吉原に向かう。大音寺前に手先の三蔵が通ると、何やら血の匂いがする。そこには旦那の死骸が。「やられやがったな。見事な切り口だ。提灯も燃えたばかり。身体も生温かい」。人殺しの犯人はきっとこの近くにいるに違いないと推察した。辺りを窺うと、前方に頭巾を被った侍が意気揚々と歩いている。「こいつだ!」。後をつけていく。侍の左をすり抜け、顔を見る。「三蔵ではないか!」「梅津のお殿様!」。三蔵は恐ろしさの余り、駆け出し、高札場の陰に隠れた。

「これで花鳥に会える」と梅津は大門をくぐり、引手茶屋の金田屋を通して、大坂屋へ。一方、三蔵も後から大坂屋へ行く。「御用の筋の者だ。旗本の梅津長門が入ったな。相方は?」「花鳥さんです」。三蔵は口止めをして、番所には届けず、浅草聖天町の金蔵親分のところへ行く。「ちょっといい話が…お耳を拝借」「おお、そいつはでかしたな」。同心に報告し、捕り方が集まった。

茶屋の親父に確認する。「梅津長門の金はどうした?」「借金を綺麗にして、さらに花代まで頂きました」「大小は?」「預かりました」。そして、金蔵たちは大坂屋へ乗り込む。「聖天町の金蔵だ。ちょいと捕物がある。御内所には迷惑をかけたくない。花鳥を呼んできてくれ」。花鳥花魁がやって来る。「ここに来ている梅津長門、大音寺前で人を殺して200両を盗んだ。そこで頼みがある。梅津に酒を飲ませてベロベロにしてくれ。大引け過ぎに油の差し替えと称して部屋に入る。そのときに御用だ。やってくれるか?」。花鳥は素直に「わかりました」と返事をする。

花鳥は惚れた男を逃がしたい。御納戸部屋から道中差しを見つけて懐に入れ、油の入れ物を4つばかり手にして二階へ上がる。そして、梅津に事の次第を説明する。梅津が言う。「人というのは一旦落ち始めるときりがないな。とうとうここまで落ちたか。とても逃げ切れるものではない」。これに対し、花鳥は「ここに道中差しがある。油の差し替えに来たときに斬っておしまい。そして、障子に油を撒いて、火を点ける。どう転んでも逃げられない体、やるだけやってみよう」。相談がまとまる。

大引け。三蔵が花鳥の部屋に「油の差し替え」と称してやって来る。「お入り」。そこを梅津がエイ!と頭から斬り付け、三蔵は息絶えた。「とうとうここまで落ちたか。こいつは三蔵。そうだったのか」。花鳥が障子に油を撒いて、行燈の火を移す。たちまち、メラメラと燃え上がる。「一緒に逃げよう」という梅津に対し、花鳥は「足手まといになる。火付けの罪は火炙り。ここで焼け死ぬのも同じこと」。梅津は「とても逃げ切れるとは思えない。地獄で会おう」。

あっという間に大火になった。吉原の出入口は大門だけ。客や女郎がこぞって逃げ、大騒ぎとなる。「それじゃ、花鳥。俺は行くぜ」「気をつけてね」。梅津は雨戸を開け、道中差しを持って、屋根の上へ逃げだす。捕り方が下から六尺棒で足を払い、梅津は屋根から転がり落ちる。「御用だ!」。梅津には柔の心得があった。何とか何人もの捕り方をかいくぐる。「そうだ。刎橋から逃げよう!」。

刎橋には群衆が押し寄せ、それを捕り方が突いて、お歯黒ドブに落ちる。刎橋が下ろされる。その群衆に紛れて、梅津は三ノ輪から吉原田圃、そして根岸へ抜けようとする。後ろから縄が飛んできて、首に掛けられるも、手繰り寄せて、腰の道中差しで刺し殺す。「俺の生きる道はこれしかない」。野兎の如く、吉原田圃を駆け抜け、根岸へ。

吉原遊郭は延々と燃え続けている。「花鳥、堪忍してくれ!」。梅津は肩を落として、上野の闇へと逃げていった。

先代馬生から伝わる「嶋鵆沖白浪」の抜き読み、圧巻だった。