視点・論点 蝶花楼桃花「究極の男社会でも自然体で」

NHK総合テレビで「視点・論点 蝶花楼桃花 究極の男社会でも自然体で」を観ました。

桃花師匠がNHK解説委員室の番組である「視点・論点」に出演、女性落語家について語ると聞いて、興味深く拝聴した。ジェンダーレス社会が叫ばれる現代において、まだまだ古い慣習が色濃く残っている落語を中心とした演芸の世界で、「女性芸人の在り方」をどのように捉えていくべきなのか。大変に関心のあるテーマだったからだ。

2022年に真打に昇進した桃花師匠の“論”を伺いたかったが、去年3月の女性芸人だけで構成した定席興行「桃組」の話にほぼ終始してしまった。サブタイトルに掲げていた「究極の男社会でも自然体で」という部分にあまり深まっていかなかったのは残念だった。たった10分という持ち時間ということ、語る内容はすべて原稿にして解説委員室が事前にチェックすること、さらに演芸界全体の話となると差し障りが出てくることもある等を考えると致し方ないことだったのだろう。特に「自然体で」の意味が最後まで判らなかった。

しかしながら、幾つかの実りのあるお話も伺うこともできた。

冒頭、桃花師匠が「私が入門した2006年当時、女性芸人を取り巻く環境は、男性だけの社会に入っていく覚悟ができていなくてはいけない、女性だからと言って言い訳は通用しない世界だった」と語り、それは“いじめ”というものではないが、「口伝の芸を伝えるのに、女性には教えにくい」「楽屋に女性がいるのはどうも不慣れだ」という声が聞こえていたという。

また、演芸ファンの中にも、「女性は落語を演るな」「女性の落語は聴かない」という人が多く見受けられ、中には女性落語家が出ると席を立ってしまう極端な例もあったと振り返る。だが、「女性であることは自分の個性だ」と考えて、活動を続けて今日があるとした。

その20年前と比べて、女性落語家が増えたことに比例して、その地位は楽屋内部そして演芸ファンの中でも向上していることは明らかな事実であり、大変に喜ばしいことだと思う。

「桃組」興行の意図についても、なるほどと思う点があった。「男性対女性の構図を作りたいわけではない」「女性芸人にも幅広い多様な個性があることを知ってもらいたい」「女性という側面のみで闘っているわけではない」等。単純に「寄席の話題作りとして女性を打ち出す」と安易に考えているわけではないことは好感が持てる。

話題を作って集客する目的で、すず風にゃん子・金魚先生の漫才をトリビュートという形で完全コピーし、桃花師匠と三遊亭律歌師匠の二人で余興として演じ、呼び水を作ったことを「これまでの寄席になかったこと」と映像まで使って紹介していたが、このことはこの10分間のテーマと少々外れるような気がした。その分、「男性目線で作られている古典落語を女性が演じるために工夫を凝らす試みの意義」や「女性的な目線を生かした新作落語が活況を呈している現状」などを語ることに時間を割いてくれれば良かったのにと思った。

ともあれ、「桃組」興行に来たお客さんの男女比は初日に男8女2だったのに対し、千秋楽には男5女5と女性がどんどん増えていったという。その効果は見逃せない。お客さんの感想として、「寄席に違和感がなかった」「友達を誘いやすかった」「女性芸人それぞれの個性がわかった」等、女性落語家の地位向上のみならず、寄席および演芸界そのものに対して大きな影響力があったことは高く評価すべきだろう。

今年、落語協会は100周年だ。その特別興行の一つとして第二回桃組興行をおこなう予定だという。そして、桃花師匠が最後に言った「こうした興行が特別なことでなくなる」ことこそ、本当の意味での“ジェンダーレスな演芸界”が実現した証しとなるのだと思う。