林家つる子独演会「芝浜」、そして鈴々舎馬るこ勉強会
「林家つる子独演会 クリスマススペシャル」に行きました。「JOMO」と「芝浜」の二席。開口一番は入船亭扇ぱいさんで「普段の袴」だった。
つる子さんの「芝浜」は独自に創り上げた“おかみさん目線バージョン”。何度か聴いているが、その度に進化している。ご自身も真打昇進後も試行錯誤を続けたいネタだとおっしゃっていた。心強い。
まず馴れ初めから入るのが良い。魚勝の持ってきたアジを見て、おみつが「美味しそう」と言うと、「わかるかい?」。「私は魚を目を見て選ぶんだけど、このアジは綺麗な目をしているもの」。魚勝は喜んで、「これは俺の気持ちだよ」と言って、お金を払おうとするおみつにプレゼントをするという…。魚勝がいなくなった後、おみつが大家に「勝っつぁんの目もキラキラして、綺麗だった」。これがきっかけで大家が仲人になり、二人は一緒になる。
そんな商売熱心な魚勝が仕事を怠けるようになるきっかけ。お得意の岩田の隠居が「負けてくれ」と言ったのを聞いて、自分は江戸中で一番良い魚を仕入れているんだ、金輪際お前の家には足を踏み入れない!と大喧嘩してきた。魚屋の自負、プライドゆえの出来事。ムシャクシャして、酒を飲み、河岸に行かなくなってしまう。女房のおみつが「河岸に行っておくれよ」と頼んでも、「俺の気持ちがお前にわかるか!」と怒鳴る。明日は行くと言いながら、行きたくねえなあと怠ける、それを繰り返して20日も過ぎてしまった。
このとき、おみつに対して、大家が言った台詞が良い。「ここでお前さんがしっかりしなきゃいけないよ。女房の勤めだよ」。その甲斐あって、魚勝は河岸に行ってくれた。「だけど大変なことになった」とおみつは大家に駆け込む。芝の浜でとんでもないものを拾ってきた。二分金ばかりで50両。亭主は「これで毎日遊んで暮らせる。河岸なんか行くものか」と言っているという。
大家が問う。「お前さんはどうしたいんだ?」。河岸に行かなくなったあの人と一緒にお酒を飲んでも、ちっとも美味しくない。どうしてこの人と一緒にいるんだろうと考えてしまう。河岸に行くあの人と一緒にいたいから夫婦になった。遊んで暮らして、河岸に行かない人とは一緒にいたくない。いっそ、夢だったらどんなにいいか。
大家が気がつく。「それだ!夢にしろ!そうすれば、あいつを起こす前に戻れるんだよ」。おみつが「信じてくれるだろうか?」と言うと、「あいつはバカ正直だ。信じるよ」。それでもおみつは「嘘が嫌いなあの人に嘘をつくことになる」と躊躇っていると、大家は「嘘にしなけりゃあいいんだ。立ち直って、もう大丈夫だと思ったら、本当のことを言えばいい」。
実際、魚勝は夢だと信じて、酒もやめて、一生懸命に働いた。そして、立派な魚屋に更生した、3年後。おみつは真実の告白をする。あれは夢ではなかったと。
私は一生懸命働くお前さんの姿に惚れたんだ。楽しそうに河岸に行って、嬉しそうに商売から帰ってきて、一緒にお酒を飲んで、「この魚、美味しいね」と言える。それで幸せだと思っていた。これが魚勝の本来の姿だと思っていた。一年後に落とし主が現れずに50両がお下げ渡しになったけど、本当のことが言えなかった。離縁状を懐に入れて、別れてもいいという覚悟で嘘をついた。この人と一緒にいたいと思った。嘘をついたと思われ、嫌われたらどうしようと思った。
でも、今年の夏に決心がついたとおみつは言う。「おっかあ、俺は魚屋になって良かった。岩田の隠居にコチを持って行ったら、美味しかった、寿命が2年も3年も延びた気がする。これからも長生きできるように魚を持ってきてくれ、と言われた。心底、魚屋をやっていて良かったと思った。これもおみつのお陰だ」。この言葉を聞いて、もう何もいらない、どうなっても構わない、今年の大晦日に謝ろうと思ったと。
「昔は大晦日が大嫌いだった。両親が借金取りにペコペコ頭を下げて、可哀想だった。でも今年の大晦日ほど楽しみなことはなかった。嘘をついていて、ごめんなさい。堪忍してください」。魚勝が返す。「嘘を言い続けて、さぞ辛かったろう。怒るわけないじゃないか。罰が当たるよ」。
お下げ渡しになった50両の使い道。「今度は使っていいんだよな?夢にならないよな?年が明けたら、長屋の連中に本当の恩返しをしたい。ご馳走を振舞って、どんちゃん騒ぎだ」。そして、魚勝がおみつにお猪口を持たせ、酒を注ぐ。「飲んでもらいたいんだ」「こんな目出度い日に飲まなきゃ、罰が当たるよね…美味しい!お酒ってこんなに美味しかったんだ。このアジも美味しい。綺麗な目をしている。お前さんの目も…」。
進化し続ける林家つる子版「芝浜」。もはや男だ、女だと言っている時代ではないのは百も承知だが、こういう創作こそ女流落語家の存在意義があるのではないかと考えずにはいられなかった。
配信で「まるらくご爆裂ドーン!~鈴々舎馬るこ勉強会」を観ました。「勘定板」「真田小僧」「置き泥」の三席。
馬るこ師匠の「置き泥」は現代版だ。豪邸に目を付けて、押し入った泥棒先生だったが、家の中で全裸の男が焚火をしている光景を目にして驚く…。男は人生に絶望し、死のうと考えていたという。「いっそ、殺してください!」。
事情を聞くと、入浴中に妻が家の中のモノを一切合切、業者に頼んだのか、全部持ち出して逃げてしまったという。その上、この豪邸の権利書も妻が持って行ってしまい、すぐにここを引き払わなければいけない。
男は元はニートで親に小遣いをせびり、パチンコ漬けの毎日だったが、ある日宝くじで10億円当たって、5億円の豪邸を購入、遊び歩いている中で知り合った女性と結婚したという。「知り合って2日目で妊娠診断書とエコー検査の写真を突き付けられた」。逃げた妻というのは初めから計画性のある性悪女だったという…。
可哀想に思った泥棒先生は「兎に角、働け」と励ますが…。男が言うに、「働いたら負け」「上下関係とか、無理」「ハロワという言葉を聞いただけで蕁麻疹がおきる」。じゃあ、生活保護を受けろ、簡単に受給できる指南をしてくれる知り合いの弁護士を紹介してやると、電話番号を教えようとするが、男は「携帯も持って行かれてしまった」。泥棒先生は仕方なく、自分のスマホをロック解除して貸してやる。
でも、全身裸。泥棒先生が来ている長袖と長ズボンを提供すると、「人の汗臭いのとか、無理」。「じゃあ、これでユニクロで一式揃えろ!」と五千円を渡してやるが、「これじゃあ、靴は買えない」とせがまれ、さらに五千円もらう。で、「3日食べてない」と言われて、「吉野家で牛丼と味噌汁とサラダ食え」と千円渡すが、「薄い肉とか、無理」。「最低でも牛角」と言われ、さらに五千円を渡す。
が、「衣食住の住が…」と言われ、「ネットカフェとか無理、最低2LDK」という男の要求に、お人好しの泥棒先生は遂にクレジットカードを渡してしまう。「これで不動産屋に行って、礼金、敷金、前家賃も払っていいから…、でも他のことには使うなよ!」。
古典落語のお人好し泥棒先生と図に乗ってどんどん要求してくる「殺せ!」という男の逆転構造はそのままに、現代に設定を変えて愉しく改作した高座、大いに笑った。