真山隼人ツキイチ独演会

真山隼人ツキイチ独演会に行きました。「刺青奇偶」「エッセイ浪曲」「南部坂雪の別れ」の三席。エッセイ浪曲は、芸の肥やしにするために浪曲以外の趣味を見つけようと努力した結果、Amazonプライムであるアニメにハマったという身辺雑記、面白かった!

「刺青奇偶」は長谷川伸先生の作品。博奕狂いのヤクザ者、半太郎が身投げしようとしていた酌婦のお仲という女性を助けたことから始まる男女の不思議な縁。三年前に三人を殺めて追われている身の上の半太郎は江戸行徳の長屋に身を隠しているが、半太郎に惚れたお仲が「おかみさんにしてくれないか」と頼むと、「賽子で決めよう」。丁なら夫婦、半なら諦める。で、丁と目が出て二人は夫婦になるというのも、神様の思し召しか。

品川青物横丁に転宅すると、お仲が病で床に伏せてしまう。お仲の父親は刺青師だったが、お仲が半太郎の腕に刺青を入れたいという。それも賽子の刺青。半太郎が博奕をやめて、真人間になってほしいという願いがそこにはこもっていた。半太郎は承諾し、「きょうで博奕はやめる。お前も元に戻って元気になってくれ」と誓う。これが誠の夫婦道!

だが、半太郎は博奕をやめなかった。百両というまとまった金をお仲の枕元で見せ、真面目に働いて稼いだと言って、お仲を安心させようと考えたのだ。だが、博奕は裏目、裏目に出て賭場の金にまで手を出してしまい、貸元の若い衆にコテンパンにやられてしまう。

それを救ったのが、政五郎親分だ。半太郎に百両を出してやるという。その代わり、賽子勝負という条件がついた。半太郎は賽子の刺青の入った右の腕をカタに、丁と張った。丁が出れば百両貰えるが、半と出たらこの右腕と泣き別れだ。出た!丁だ!「もう勝負はよしなよ」と言って、革財布を半太郎に渡した政五郎の背中を見送った。

政五郎から渡されて振った賽子をもう一度振る。また、丁だ。さらに振る。丁だ。何度振っても丁の目が出る。イカサマ博奕の賽子だった。そして、革財布の中を確かめると、百五十両だ。「ありがたい!」、半太郎は嬉しさの余り腰が抜けてしまった。「お仲、待っていろよ!」。この後、半太郎とお仲はどうなるのか。余韻を残して、終わった。ヤクザ渡世の哀愁が漂う読み物だった。

「南部坂雪の別れ」。瑤泉院の許を訪ねた大石内蔵助が心を鬼にして仇討について口を割らない覚悟に感じ入る。殿の法要を終え、山科に帰り、出家する。嫡男の主税は商人にする。瑤泉院はこれを聞き、忠義を捨てるのか、恩を忘却するのか、それらは敵を欺くための方便であろう?と問い、本当のことを聞かせておくれと大石に詰め寄るが…。

胸に五寸釘を打たれたよう、「いっそ、知らそうか」とも思う大石だったが、見慣れぬ女中もいる中、浪士の苦労が水の泡になってはいけない。瑤泉院に「もうそなたには会いたくない」と罵られ、言うに言われぬ悔しさを抱えながら、玄関先で背中を見せる大石の我慢強さに心が打たれる。戸田局が再度尋ねるも、「真じゃ」と答え、兄の小野寺十内は飴売りに、弟の幸右衛門は幇間になったと虚偽を言う。戸田局は「武士らしく腹を切ってしまえ」と伝えてくれと大石に言う。

世の中の人と莨の良し悪しは煙となって後の世に出る。大石の胸中を言い表すのに的確な表現だと思った。下郎の寺坂吉右衛門が差し出した傘を差し、雪が降る南部坂を去って行く姿の場面。実際に高座で唸る隼人さんの頭上から雪に見立てた細かい白い紙が舞い降りて、演出効果を高めていたのが良かった。

大石が別れ際に戸田局に手渡した紫の袱紗包み。眠れぬ戸田局の部屋に忍んできた覆面頭巾の人物に、「狼藉者!」と叫ぶと、それは家中の小間使いであり、吉良方の隠密だった。そして狙われていた袱紗包みの中は忠臣一同の連判状だった。

瑤泉院以下女中たちは、無事に無念が晴らせますように、念仏を唱えた。そして、赤穂藩四十七士が見事に仇討本懐を遂げ、泉岳寺へと向かうところで、また雪が隼人さんの頭上から舞い降りて、大団円を迎えるのがとても素敵だった。