笑福亭鶴瓶落語会 「芝浜」

笑福亭鶴瓶落語会に行きました。「かんしゃく」と「芝浜」の二席。鶴瓶噺という名のオープニングトークの後、今年急逝した一番弟子の笑瓶さんの思い出映像がビートルズのア・ハード・デイズ・ナイトに乗せて上映されたのが印象に残った。

「芝浜」。大坂の魚屋だった勝造が吉原の女郎と結婚したために、親に反対され、駆け落ち同然に江戸に夫婦で出て、棒手振りから商売を始めたが…という設定。商売が上手くいかずに魚勝が酒に溺れてしまって、一カ月も商いに出ていない駄目亭主を女房が無理やり起こして、芝の河岸に行かせる。

芝の浜で拾った二分金ばかりで50両入った革財布に対し、魚勝は「これで遊んで暮らせる」と喜び、湯に行って、友達を沢山連れて来て、天婦羅、寿司、鰻と大判ぶり舞いの酒盛り。「めでたい、めでたい」を繰り返す亭主に、女房は「一体、何がめでたいのか?」と詰問する。

女房の芝居の見せ場だ。あの飲んだり食ったりした代金はどこから払うのか?50両?革財布?芝の浜で拾った?いつ行ったの?堂々巡りの問答を夫婦でしているうちに、女房が言う。「夢よ!そんな夢を見るなんて情けない。毎日酒ばかり飲んでいるから、罰が当たったのよ!」。

これによって魚勝はハッと目覚める。「すまない!堪忍してくれ。俺は酒をやめる。だからこの払いを何とかしてくれないか?兄さんに訳を話して都合してもらってくれ。その代わり、俺はこれから一生懸命に働く」。本心から誓った魚勝の覚悟に嘘はなかった。

元々は腕の良い魚屋だ。1年で借金は返済、3年で表通りに店を構えるまでになる。3年後の大晦日。福茶を飲み、畳替えも済ませ、幸せな夫婦の形だ。「一生懸命に働いて良かった」と言う魚勝の台詞。これで女房は亭主の再生を確信した。

「怒らないで聞いてくれる?この財布、覚えていない?二分金ばかりで50両」「あれは夢と違うのか?」「私が騙したの」「あれはホンマやったのか?あのときは情けなかった」「あのまま使っていたら、世間の口が許さない。やがては番所に伝わる。怖くなったの。大家さんに相談したら、夢にしろ、って。それでお前さんは人が好いから騙されてくれた…財布は持ち主が見つからなくて、お下げ渡しになった。でも、すぐそのことを言ったら、お前さんが元通りに戻っちゃうんじゃないか。それで言えなかったの」。

「でも、きょうのお前さんを見たら、百両、千両見せても変わらないと思った。3年の間、騙していてごめんなさい。私をぶってください。そして、許してください。この通りです」「お手をあげてください。お前がいなかったら、俺の首はつながっているかどうかも判らなかった。女房大明神だ。おおきに」「許してくれる?」「叩いたら罰が当たる。よう騙してくれた」。

鶴瓶師匠は演じ終わった後、「生きているから、頑張れる。生き切ることの大切さをこの噺から伝えたかった」と言った。素敵な夫婦の形を見せてくれた「芝浜」だった。