百栄てきぃ―ら!!、そして真山隼人ツキイチ独演会

「百栄てきぃーら!! 春風亭百栄独演会」に行きました。「素人義太夫」「つっこみ根問」「あの姉妹」の三席。開口一番は桂枝平さんで「動物園」だった。

「素人義太夫」。旦那の表情の表現が良かった。好きな義太夫を語りたくてウズウズしていたところへ、繁蔵によって長屋の人々、そして店の奉公人が欠席するという報告が次々とされ、どんどん落ち込んでいく様子…。

節が付くだけ情けない、これで金を取れば泥棒だ、店の中から聞こえてくる追い打ちの言葉に、血管がブチ切れるのではないかというリアクションも、人の迷惑を省みない旦那の自己満足独演会の傲慢さが出ていて面白い。

先代の番頭だった佐平さんが、他の奉公人を守るために独りで犠牲者となり、旦那の義太夫に立ち向かった武勇伝。蔵に逃げ込んだ佐平さんに対し、窓から義太夫を吹き込んで、それが渦を巻いて直撃して、最後は頭がおかしくなってしまい、お人形を抱っこしていたという哀しいエピソードに笑ってしまった。

「つっこみ根問」は百栄師匠ならではの「浮世根問」。八五郎との会話に、乗りツッコミで応える隠居が愉しい。どこがでこぼこ頭じゃい!と言いながら、自分の頭を触って、アレ?アレ?と認めてしまうところ、何度観ても爆笑である。

「あの姉妹」。ゴージャス&セクシーを売りにして80年代にテレビで売れっ子だった“姉妹”の形式をとったキョウコさんとミカさんの女性ユニットはいま…という新作落語。僕は2019年5月に百栄師匠の落語協会二階の勉強会「もちゃもちゃ」で聴いて以来だ。

すっかり落ちぶれて、空き缶拾いをしている二人のやりとりの面白さは百栄師匠にしか表現できない独特の面白さだ。久しぶりに蔵出しするに当たって、リニューアルがなされ、落語協会100周年の準備に大忙しの柳家小ゑん師匠が登場するのが可笑しかった。

夜は浅草に移動して、真山隼人ツキイチ独演会に行きました。「亀甲縞」「エッセイ浪曲 オヤジ狩りにあった件」「松浦の太鼓」の三席。曲師は沢村さくらさん。

「亀甲縞」。36万6千石の藤堂家の財政難を救う農民の治兵衛、ビジネスマンとしての才覚もあったということだろうか。松坂木綿に対抗して、オリジナルの縞柄を考案し、綿を30万反の織物にして売る。

大坂では「柄に馴染みがない」と嫌われ、一反八匁で買ってほしいところ、呉服問屋には七匁とか、七匁五分しか出せないと断られるが…。角座に出演していた二代目團十郎の人気のお陰で、「この柄は江戸で流行りに柄らしい」と評判を取り、問屋が「一反二十匁出すから、譲ってほしい」と言うまでに。

治兵衛の才覚もそうだが、いかに芸者衆や花形役者が当時のファッションリーダーだったかが判る。めでたい読み物だ。

「松浦の太鼓」。年の瀬や水の流れと人の身は明日待たるるその宝船。宝井其角の上の句に、大高源吾が付けた下の句の意味とは?赤穂浪士に仇を討ってほしいと願っている松浦の殿様は、何もしない大石内蔵助以下の浪士に苛立ちを感じ、源吾の妹で松浦様に女中奉公しているおぬいを宿下がりさせようと思っていたが…。

其角から聞いた「明日待たるるその宝船」の真意を考えこんで眠れなかった松浦様だが、隣の吉良邸前から聞こえる陣太鼓の音を聞いて、「なるほど!」と膝を打つ。そして大高源吾に向かって、「でかしゃった!」と喜びの想いを声に出して叫ぶ。“その宝船”とは、仇討本懐のことだったのか…。隼人さんが仁左衛門丈になりきって、聴かせた。