噺ノ目線、そして井上新五郎正隆作品初演の会
「噺ノ目線4~新作ミックス」に行きました。これまでの噺ノ目線は女性落語家だけの出演だったが、今回は男性も加わっての新作落語の会となった。
林家きよ彦「お母さん」
隙間産業にビジネスチャンスあり!が口癖のお父さんは職業として「お母さん」を選ぶというユニークさがいい。しかも、国家公務員!自分の娘が通う小学校の運動会にクライアントの息子さんの「お母さん」として参加することになり、騒動が起きるという…。発想の面白さ。
三遊亭青森「カレーの匂い」
青森さん、この独白型、しかも絶叫型の落語が定番になってきた?自分が超能力者で、カレーの匂いに敏感すぎて、普通の人とは違う劣等感を感じるという主人公。子どもの頃はカレーに対する嗅覚でモルモットのように人体実験されていたという屈辱がトラウマになって…。独特の味わい。
柳亭信楽「聖夜の奇跡」
クリスマスの夜には“中年”が来ると信じているトモくん。母親に「中年は本当にいるの?」と訊くと、「信じている子どものところにだけ中年は来るのよ」。中年、中年と繰り返すバカバカしさがこの噺をどんどん面白くする。中年は言う。「夢を失う代わりに大事なものを手に入れたよ。それは諦めだ」。
弁財亭和泉「私が私が」
喫茶店における小田原さんと青山さん、二人の女性のお互いに謙遜しているようで、実はマウントを取りにいく会話が実に痛快である。小田原さんは文京区の一戸建てに住み、趣味の延長線上でウェブデザイナーをやっている。青山さんは実年齢より10歳若く見える、いくら食べても太らなくて、20歳年下の彼氏がいる。そんな二人の甘噛み…癖になる面白さだ。
神田桜子「ときめき☆注意報 転校生のアイツ」
少女漫画好きの桜子さんが王道のラブコメディを展開しようとする、その序章。主人公の涼風某(高校2年の女子)は図書委員、そこへ転校してきた美少年の西園寺某とちょっとしたトラブルが…。どうなる!?
古今亭駒治「B席」
新幹線の3席繋がった方の窓際でもなく、通路側でもない、真ん中のB席の悲劇をユーモラスに描く。シートを向かい合わせにしてお喋りに興じる団体のおばちゃん5人に、なぜか挟まってしまった主人公はどこに怒りをぶちまけていいのか。護送囚人のような存在の哀愁が漂った。
夜は高田馬場に移動して、「はつもの~井上新五郎正隆作品初演の会」に行きました。落語作家の井上先生は演者にアテ書きで書かれているそうだ。
三遊亭遊かり「たまのこし屋」
女性たちのワイワイガヤガヤ、いわゆるワイガヤモノの落語って実はない。そこに目を付けたのが素晴らしい。お熊さんは薬屋で、依頼者の女性と“惚れ薬”でお金持ちの男とを結婚に持ち込むと言っていたが…。そのお陰で造り酒屋の嫁になったお志乃さんが長屋の女性たちに伝授する“男に惚れられる”コツが面白い。癒せ、和ませ、甘えさせ。この三つのキーワードをマスターすれば、惚れ薬などは本当は要らないというからくりが面白い。
春風亭柳枝「がらっぽんの夜」
昔は誰かが亡くなると、本当に通夜の言葉通り、夜明かしで遺体の番をした。その代わり、寝てしまわないように博奕をしていたという。その文化が下敷きにある創作だ。博奕好きの源ちゃんが近江屋の大旦那の通夜でどうしても博奕がしたかったが、若旦那が堅い人でそれをさせない。そこで寺男の杢助に仏の役を頼んで博奕の支度を調えるという…。落語的なバカバカしさが愉しい一席に仕上がっていた。
柳家小せん「凧占い」
占い師に弟子入りした男、「俺は褒められて伸びる人間だ」と言うのが、サゲにつながる。きのこ占い、殴られ占い、寿司占い、金魚占い…、色々と師匠は例を挙げるが、もっと評判を集めるような、世間があっと驚くような占いはないかとせがむ男。凧にへばりついて、天にあげてもらい、それで占いをする“凧占い”に果敢に挑んだが…。占いなんて昔からこんな奇妙奇天烈なモノが人気を呼んだのかもしれない。