立川小春志真打昇進披露興行 千秋楽
立川小春志真打昇進披露興行千秋楽に行きました。ゲストは昼の部が笑福亭鶴瓶師匠、夜の部が春風亭昇太師匠だった。
昼の部
御披露 小春志・談春・鶴瓶/「粗忽の使者」立川談春/「癇癪」笑福亭鶴瓶/中入り/「明烏」立川小春志
鶴瓶師匠はまず、「17年、よく頑張った。俺だったらやめている」と言った後、「でも、ここまで育てた談春がすごい。よく我慢したと思う」。小春志師匠が見習いの時代に、よみうりホールの六人の会の楽屋の隅っこで立っていたら、鶴瓶師匠が志の輔師匠に私(こはる)の方を指差して、コソコソ喋っていたのを覚えています?と訊くと、鶴瓶師匠は「覚えてないなあ」と一瞬考えこんで、「…あぁ、あのときか」。談春のところに女の弟子が入ったことを確認し、「談志師匠はそれでいいのか」と訊いたそうだ。
談志師匠が「女には落語は出来ない」と本に書いていて、こはるに対して「本は読んだのか?」と訊いたそうだ。こはるは本当は本は読んでいなかったが、「はい」と答え、「それならいい」と言われたとか。談春師匠いわく「こいつ、怖いもの知らずなんです」。実は談志師匠は優しいんだよなあ。談春師匠が「こいつは女性落語家のカテゴリーに入っていない。そこは偉い」と褒め、鶴瓶師匠も「性格がいいし、愛嬌があるよね」と言うと、談春師匠が「僕ら同輩から可愛がられていることは、有難いことです」と。
鶴瓶師匠が“おやっさん”と呼ぶ、師匠だった六代目松鶴は「兎に角、メチャクチャ怒る人だった」。鶴光と二人で「トラック野郎」に出演したら、「なんで俺に言わない?」と言って、殴られ、階段から突き落とされた。弟弟子は傘で突かれ、翌日に謝りに言ったら、「なんです?あれ、酔うてた」。稽古も付けてくれない。「稽古付けてください!」と言うと、「嫌や!」。でも、あとから「あいつはほっといた方がいい」というちゃんとした理由があったことが判ったそうだ。
これまで落語をやってこなかった鶴瓶師匠が小朝師匠に「子は鎹」を演るように言われて、見事に演じ切ったのを談春師匠が見て、「この人は落語が出来ないと自分のことを言っているけど、このレベルでも“出来ない”と言うんだ」と衝撃を受けたのを覚えているという。
「赤めだか」を読むように奥さんから言われて、鶴瓶師匠は「なんで他人の修業のことを書いた本を読んで学ばなきゃいけないんだ?」と思ったそうだが、実際に飛行機の中で読んだら号泣してしまったそう。それで、「赤めだか」をドラマにしてくれ!とTBSのプロデューサーにお願いした。北野武さんと二宮和也さんのキャスティングは鶴瓶師匠が考えたそうで、4年かかってドラマ化が実現した。その縁もあり、談春師匠は「下町ロケット」に出演したそうだ。
談春師匠は、今回の披露興行10公演の中で、小春志とは一番繋がりが薄くて、大変に忙しい鶴瓶師匠をゲストにお呼びできて、天国の談志師匠が「よくやった」と言ってくれていると思うとおっしゃった。縁は繋ぐことが大事と言ったら、鶴瓶師匠が「縁は努力や。続けて太くするものや」と応えていたのが印象的だった。
小春志師匠の「明烏」。素直というか、純情というか、時次郎のキャラクターがとても良かった。父親に指示されたことを源兵衛と太助に無邪気に全部喋っちゃうし、御神木や大鳥居、御巫女の家の御巫女頭も全部信じてしまうし、それはある意味世間知らずなのかもしれないが、大人への階段として誰も通る道でもある。
「吉原細見」を読んで知っている現実の吉原が目の前に現れたとき、汚らわしい、瘡の病になるとワンワン喚くところ。帰る!と言って自我を貫こうとし、周囲の空気を読もうとしない子どもだった時次郎も、一晩浦里花魁に世話になることによって人生の良い勉強になったのではないか。小春志師匠のニンに合った噺のように感じた。
夜の部
「桑名船」立川談春/「オヤジの王国」春風亭昇太/中入り/御披露 小春志・談春・昇太/「宿屋の仇討」立川小春志
小春志師匠と昇太師匠の繋がりは、BS日テレの笑点特大号の「女流大喜利」の回答者と司会という関係。あの大喜利の操作はすごい楽、だってそれぞれのキャラクターが決まっているから、と昇太師匠。桃花がアイドル、遊かりがアダルト、小春志は“子ども枠”、「運動会の帰りか!」とか言って突っ込んでいるそう。
談春師匠が「今の若い人たちは落語で食えるからいいね。だから行儀がいい。我々は獣みたいだった」。昇太師匠はにっかん飛切落語会で「負けたくないんだ!」と言って、鏡の前でシャドーボクシングをしていたとか。客席が「新作なんか聞かないよ」という空気の中、昇太師匠は「写ルンです」を持って、まず客席を撮り、その後にお客さんに渡して、舞台の自分を撮ってもらっていた。一瞬にして、自分の空気にしてしまう革命家だったと談春師匠が振り返った。「あの後の三木助兄さん(先代)がやりにくそうだったね」(笑)。
高田文夫先生が“異種格闘技”と称して、浅草キッドや梅垣義明、松村邦洋といったお笑い芸人の中に昇太や談春、志らくらをぶち込み、漫談をやらされた。「あの頃は大変だったけど、あのお陰で鍛えられたよね」。当時は着物を着ていることがマイナスで、春風亭という亭号が邪魔しているから、本名でやらない?と言うテレビ関係者もいたという。落語家は多くて800人とか言われているけど、お笑いの人は万の単位でいるからピリピリしている、落語の世界はそこへいくと暢気で良いよね、と。
昇太師匠は大学時代、談志師匠が柳昇師匠の新作「南極探検」を末広亭で掛けて、見事に撃沈しているところを見たという。その後、柳昇師匠が演っているのを見たら、大爆笑だったそうだ。あのフワフワしている感じが好きで、柳昇師匠に入門した。「伸びる人はどこに行っても伸びるし、駄目な人はどこへ行っても駄目」と言って、その点、立川流は「この人でなきゃ駄目なんだ!」と言って入門するんでしょう?
昇太師匠が「どうして、談志師匠に入門したの?」と純粋に小春志師匠に訊くと、「それまで立川流の落語を聴いたことがなかった。初めて談春師匠の『髪結新三』と『らくだ』を聴いて、説得力と迫力が凄い!と思った」。好きな落語家は「聴きたい!」だが、談春師匠の場合は「教わりたい!」と思ったそうだ。
昇太師匠が最後に、女性落語家は色々なタイプがいる、一括りにならない、正直「窮屈だな」「何とかならないかな?」と思う人もいる、でも小春志師匠は「違うところにいる」。自分の世界を作りつつある、これからは師匠談春と距離を置いて自分の空気を濃くしていったら、きっと素敵な落語家になるよ、と餞の言葉を贈ったのが感動的だった。
小春志師匠の「宿屋の仇討」。宿屋にチェックインしたときから騒がしい“始終三人組”、隣に二本差しがいると聞いて怯えるも、懲りずに相撲を取ったり、色恋話で盛り上がったりする、修学旅行の生徒のような愉しさをよく伝えていた。
人を二人斬って、50両を盗み、未だに捕まっていないという、源ちゃんが居酒屋で聞いた話を、さも自分のことのように自慢げに喋る様子は特に良い。そして、隣の侍が万事世話九郎ではなく、石坂段右衛門その人だ!と知らされたときの慌てようも愉快。小春志師匠の面目躍如たるところだろう。