立川小春志真打昇進披露興行 二日目

立川小春志真打昇進披露興行二日目に行きました。ゲストは昼の部が柳家喬太郎師匠、夜の部がさだまさしさんだった。

昼の部

御披露 小春志・談春・喬太郎/「小春志の寝床」立川談春/「当世女甚五郎」柳家喬太郎/中入り/「鼠穴」立川小春志

喬太郎師匠が「いつ真打になってもおかしくなかった。修業期間が長かったが、厳しい談春師匠がとうとう認めたんだな、満を持して真打を出すんだなという思いがある」と感慨深そうに語った。前座の頃から一緒に仕事をして、勉強熱心だなと思っていた、談春師匠の愛情が重荷になったこともあったろうが、よく弱音を吐かずに修業した、と言って、「所属団体も、流派も関係なく、自信を持って我々が肚からお客様によろしくお願いしますと申し上げることができる」と讃えた。

喬太郎師匠はこれまで見習いで2人の弟子を取ったが、「この世界に合わないから」とお引取り願った、そして去年入った弟子に初めて噺の稽古を付けたという。そして、改めて「師匠っていうのは大変なんだなあと思い、師匠の有難みが判った」という。

談春師匠が「かつて喬太郎さんがベロベロに酔っ払って電話をかけてきて、『こはるを育ててやってくれ』と言われたことがある」と明かしたが、最近になって、喬太郎師匠が「弟子を育てるのって、大変だね」と言うようになったそうだ。

徒弟制度の世界だが、頭ごなしに怒ると言っても、その“頭ごなし具合”が難しいねと。パワハラなどが喧しく言われる時代、カミナリの落とし方一つとっても悩むという。喬太郎師匠いわく、「自分が前座の頃を思い出す」と。自分がしくじったとき、「どこの弟子だ?」と言われたくない、さん喬の顔に泥を塗ることになる、そういうことを含めて「どこからどこまで、何を教えればいいのだろう」というジレンマがあると打ち明けていたのが印象的だった。

談春師匠の「小春志の寝床」は、古典落語「寝床」のパロディ新作。談春師匠がさだまさしを歌う会を催し、小春志が今回の披露目のゲストのところに誘いに廻ったが、全員が何かしら理由をつけて欠席するという…。ピアニカを吹きながら、鼻息荒く歌いたがっている談春師匠が可笑しい。

小春志師匠の「鼠穴」。商売の元手として竹次郎に“たった三文”しか渡さなかった兄だが、そこには「茶屋酒の味が抜けていない」という好判断があった。強情な性格の竹次郎は、この悔しさをバネに10年後には深川蛤町に立派な店を構えるまでになるという、そこにドラマを感じる高座だった。

竹次郎が元手の三文と“利息”の5両を持って、兄の店を再訪したときの、兄の喜び方に兄弟愛を感じる。成功した弟を温かく迎える兄としての愛情がそこに浮かび上がる。

欲を言えば、夢の中の兄の取った態度をもっと冷酷に突き放すように演じると良いと感じた。火事で財産を失い、女房が病に伏せて、すがる思いで竹次郎は兄に50両の再建資金を貸してくれと求めた。だが、今の竹次郎には返済能力がないと判断した兄はある意味正しい。血の繋がっている兄弟だったら、そこを助けてやるのが人情というものだが…。兄を鬼のような存在にすることで、兄に起こされてハッとこれが長い悪夢だったと気づいたとき、観客も一緒になって安堵することができるのではないかと思う。

夜の部

「小春志の寝床」立川談春/御披露 小春志・談春・さだまさし/中入り/歌とトーク さだまさし/「大工調べ」立川小春志

さださんが小春志という名前は良い名前だと言った後、小春志の「志」は談志の「志」なのか、てっきり「佐田雅志」の「志」かと思ったと笑わせた。こはるは入門したときから知っている、よくぞ談春を選んだ、今年ビックモーターに入るようなものだ、耐えに耐え、パワハラは辛かったろうと訊いたら、「ただし、セクハラはありませんでした」。

さださんは大晦日に国技館でカウントダウンコンサートを行っているが、折角だからお客様に「芝浜」を聴いてもらおうと思い立ち、これまで柳家一琴師匠、春風亭正太郎(現・柳枝師匠)、そして談春師匠、三三師匠などにお願いしてきた。今年は一之輔師匠が引き受けてくれたそうだ。いつの日か、小春志師匠にも演ってもらえるようになってもらいたい、と。

小春志師匠は中学・高校は青山学院だったが、昆虫が大好きで東京農工大学に進んだ。トビムシという太古の時代から生存しているムシを解剖、研究していた。それがなぜ、談春師匠に入門したのか?とさださんが訊いたら、「説得力、迫力があった。重低音で身体に響く魅力があった」と小春志師匠は答えた。常々、談春師匠は落語を楽譜におこせ、楽器的に演じろと教えるそうだ。音の高低で人の心を揺さぶる。それが落語だと。

さださんも同様に「落語は音楽だ」と言う。ダイナミクス、グルーヴ。緩急や強弱をつけることで、人間が生きていることを表現するのが落語だと。泣く、語る、震える。人間の呼吸のテンポは一定ではない、そこが“生きている”ということに繋がるのかもしれない。

さだまさしさんのステージは、①案山子②道化師のソネット③秋桜④いのちの理由の4曲。♬秋桜の中に、「こんな小春日和の穏やかな日に」という歌詞があるが、スタッフから「きょうは秋桜を歌うんでしょう?」と言われたと言って、そこの部分を3度繰り返して演奏していたのが印象的だった。

小春志師匠の「大工調べ」。こはる時代から得意にしていた噺だ。彼女の江戸前の口調の良さが生きる。特に棟梁が大家に啖呵を切るところ、何を抜かしやがる、この丸太ん棒!にはじまり、六兵衛さんが死んで運が回ってきた現在の大家の焼き芋で腹を下した人間が何人もいる!というところで、客席から中手が入る見事な啖呵だ。

与太郎が溜めた店賃、一両二分と八百。この八百が足りないばっかりに、大家は道具箱を返してくれない。確かに大家の言い分は正しいが…。「ここまでお願いしても駄目ですか」と棟梁が平身低頭で頼み込むが、大家も頑固だ。町役人を鼻にかける大家は、棟梁のことを「雪隠大工」とまで見下すから、聴き手も思わず与太郎サイドを応援したくなる。今後も小春志十八番として演じ続けてほしい噺だ。