10月の萬橘 三遊亭萬橘「妾馬」

「10月の萬橘~三遊亭萬橘独演会」に行きました。「居候」「壺算」「妾馬」の三席。

「壺算」は萬橘師匠独特の型で鉄板ネタ。“買い物上手”の兄貴は何も企まず、ただ1回土下座して3円50銭の一荷入りの甕を3円に負けて貰っただけ。それが、二荷入りが3円で買えてしまう…。すべて瀬戸物屋の番頭の自滅によるもので、買い手は漁夫の利を得るというのが爆笑を呼ぶ。

「妾馬」。身分の違いに臆することがない八五郎がとても印象的な高座だ。お鶴が世継ぎを産んだから、赤井御門守様が兄に会いたがっていると聞いて、「家に来るんじゃないの?普通、向こうから挨拶に来るものだろう」と大家に対して言うところからして、八五郎の純粋な性格を顕わしている。

実際にお屋敷を訪ねて、殿様にお目通り叶うと、「こんな広い所に住んで、こんな美味いモノを食って、羨ましいなあ」と言って、「俺にもお姫様を紹介してくれよ…あ、友達いないんだっけ?」。本当に、無邪気だ。

妹のお鶴を見つけると、「本当にここに居て幸せなのか?良かったのか?」と心の底から訊き、「辛かったら、言えよ。お兄ちゃんが長屋に戻してやるから」と気遣いする優しさに、がさつではない八五郎の一面を見る。

母親が「孫のおしめを替えることもできない」と嘆いていたから、「殿様の方が弟なんだ、近所なんだからちょくちょく顔を出せばいいんだ」と真顔で言ったという八五郎に身分の差という認識はほとんどないのだろう。

そして、殿様に対し、「お鶴と赤ん坊を連れて長屋に遊びにくればいい」とまで言う。「鰻くらいご馳走する…と言いたいところだけど、それなりのもてなしはするから」と言って、「三ちゃん(田中三太夫)も一緒にくればいい」とも。

三太夫が「ご老女」だと言うのを聞かないで、「おばあさん」と呼び、もう一杯お酌をしてもらって、「あとは手酌でいいから」。これだけフランクに接すると、殿様も気持ち良くなるのだろう、すっかりご機嫌だ。八五郎が長唄や都々逸を唄うのを、ヨォーヨォーと掛け声をかける義弟、赤井御門守はすっかり八五郎のペースに巻き込まれた。

身分が上だからと言って、変に畏まり過ぎたり、遜り過ぎたりするのではなく、開けっ広げに純朴な八五郎だからこそ、殿様は士分に取り立てたくなったのではないかと思うのだった。

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