浅草演芸ホール 吉例納涼 住吉踊り
浅草演芸ホール八月中席千秋楽昼の部に行きました。大喜利が吉例納涼住吉踊りという特別興行である。開演は10時半、終演は16時半、つまり6時間の長丁場。お尻が痛くなったが、たっぷり堪能した。
「浮世根問」柳家ひろ馬/「ぞろぞろ」入船亭扇太/「悋気の独楽」三遊亭遊子/ジャグリング ストレート松浦/「のめる」古今亭始/「忍指南」桂翔丸/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「ざるや」古今亭志ん雀/「真田小僧」古今亭駒子/音楽パフォーマンス のだゆき/「三方ヶ原」宝井梅福/「鰻屋」古今亭志ん陽/中入り/紙切り 林家楽一/「新寿限無」古今亭圓菊/「浮世床~将棋」柳家小さん/漫才 ロケット団/「狸の鯉」古今亭菊千代/「茗荷宿」桃月庵白酒/奇術 花島皆子/「つる」古今亭文菊/「小言題目」春雨や雷蔵/漫才 ホンキートンク/「楽屋外伝」鈴々舎馬風/「へっつい幽霊」柳家小里ん/中入り/「他行」三遊亭とん馬/「善光寺由来」古今亭菊春/浮世節 立花家橘之助/「替り目」古今亭志ん彌/大喜利 納涼住吉踊り
45周年だそうである。寄席芸として「住吉踊り」を復活させようと、落語芸術協会にいた八代目雷門助六師匠に、落語協会の古今亭志ん朝師匠がお願いする形ではじまったと記憶している。計算すると、昭和53年にスタートしたことになる。
一番強烈に記憶しているのは、平成13年。その年の10月1日に志ん朝師匠は亡くなったが、最後の高座が8月20日の浅草演芸ホール。そう、住吉踊りの千秋楽だった。浅草演芸ホールの松倉久幸会長(当時)は志ん朝師匠のマネージャーから「体調を崩して高座は出られそうにない」と連絡があったという。
しかし、志ん朝師匠は「住吉踊りだけは出たい」と強く希望し、入院先の病院で点滴を打ち、千秋楽まで通い続けた。千秋楽の演目は「男の勲章」。最近は歯が駄目になっちゃって、フランスパンに食いつくと歯をもっていかれちゃう、などとぼやく晩年の定番の漫談だ。
そして、大喜利の住吉踊りでは、動きにキレもあり、客席は大いに沸いたという。松倉会長の「どこが病気?と思うくらいの10日間。完璧主義者の相応しい、最後の高座だったと思う」というコメントを当時の死去を悼む新聞記事で読んだ。
僕は志ん朝師匠最後の住吉踊りは、当時長野に勤務していて見られなかったが、それ以前には何度か行っていて、あしたひろし・順子先生との掛け合いや、圓弥師匠との見事なコンビネーションが目に焼き付いている。昭和終わりから平成の初めにかけての良き思い出だ。
さて、きょうの大喜利。まずは10人の女性陣による木遣りから始まった。そして、伊勢音頭~吃又(大津絵)~奴さん~姐さんと続く。姐さんのメンバーが張り扇を使っての茶番で沸かせる。金馬→とん馬→雷蔵→志ん彌→菊春。とん馬「雷蔵さん、ちょっと私と遊ばない?」雷蔵「だめよ、お母さんに叱られる」とん馬「遊びましょうよ」雷蔵「とん馬さんと遊ぶと、ジャニーズ事務所に入れられるから」(笑)といった掛け合いが面白い。張り扇の音が大きければ大きいほど、お客様が健康になり、幸せになるという…。
座長の志ん彌師匠が若手メンバーを紹介。入船亭扇太、古今亭雛菊、ホンキートンク遊次、同じく弾、立花家あまね。一部を除いて、初々しい。志ん朝師匠が亡くなって22年。こうやって寄席芸が受け継がれていくのが嬉しい。さらに、“新真打”の紹介と言って、桂翔丸師匠、そこに春風亭昇也師匠がやってくると、「あなたは去年の新真打でしょう!」と言われ、「昇進して3年は新真打なんです!」。すると、古今亭志ん雀が「じゃあ、私も!」。「あなたは一昨年の新真打でしょう!」。この芝居に限っては、昇也や翔丸など落語芸術協会からも参加がある。これも先代助六師匠と志ん朝師匠が築き上げた「夏の風物詩」が脈々と続いている証だ。
続いて、かっかれ(常磐津勢獅子の内)~綱は上意を(通称:ツナジョウ)。さらに深川を若手たちが一生懸命に踊って盛り上がる。そして、かっぽれ。紀伊國屋文左衛門を祝って「私しゃ貴方にかっぽれ」と囃した寄席の踊りの代表選手を、色々な芸人が趣向を凝らして笑わせる。
志ん彌師匠と金馬師匠、相惚れ(あいぼれ)をやるはずが金馬師匠が終始ボケに回って、まるでコントのような面白さ。「住吉踊りと日大は何でもあり」はけだし名言だ。師範代の橘之助師匠が日本刀、志ん陽師匠が傘を使ってのかっぽれは本格派で客席をうならせる。林家けい木、古今亭始、春雨や雷太の3人がサングラスをかけてイケメンかっぽれ。だが、「雷太はイケメンじゃない!」と言われ、志ん雀師匠が登場するのはお約束か。
最後はメンバー全員が出てきての、総踊り。壮観だ。僕は小学校6年生のときの運動会で6年生全員で八木節を踊るという必須科目があったのだが、その中でただ一人「ワンテンポ遅れる!」と終始怒られ、特訓を受けた苦い思い出がある。いわゆるリズム音痴。だから、自分が踊るのは勘弁だが、達者な芸人さんたちの見事な踊りを見るのはとても気持ちが良くて、大好きだ。