泉岳寺講談会、そして立川談笑「慶安太平記」第5話

泉岳寺講談会に行きました。毎月14日に行われる講談協会と日本講談協会の共同開催、主任は必ず義士伝をネタ出しして読むことになっている。きょうは、一龍斎貞心先生が「五代目貞丈から伝わった綺麗な楷書の芸をそのまま読む」とおっしゃって、それはそれは非常に素晴らしい高座だった。

「雷電初土俵」神田青之丞/「戸塚焼餅坂」一龍斎貞太/「扇の的」神田鯉花/「雨夜の裏田圃」神田阿久鯉/中入り/「鼓ヶ滝」一龍斎貞弥/「倉橋伝助」一龍斎貞心

貞心先生の「倉橋伝助」。長谷川丹後守の次男で、女遊びと博奕が過ぎて勘当になった金三郎が、赤の他人ながら世話をしてくれる優しい人々のお陰で、最終的には赤穂四十七士となる過程には、常に人の情けの有難さがあることを強く思う。

上総の髪結床「碇床」の親父、権次。10両を恵んでくれた浅野源太を頼って上総に来た金三郎だが、権次に拾われて至れり尽くせりの面倒を見てくれたことには大感謝だ。水汲みからはじまって、髭剃りも任され、ついには碇床の看板にまでなる金三郎の努力も見逃せない。権次は婿養子に迎えたいと願うが、そのときに金三郎は本当の身の上を打ち明けなければならない心苦しさもよく分かる。そのことを含めて理解してくれる権次の思慮深さにも畏れ入った。

金三郎は江戸へ出て、口入れ屋の紹介で浅野内匠頭屋敷の足軽になるが、すぐに弓術の腕を見込まれて士分に取り立てられるのも金三郎の才覚だろう。だが、そこで身の上を嘘偽りなく書面に書いて提出しなければならないために、“丹後守の子息”であることが判ったとき、すぐに親子対面をするように手を回した浅野内匠頭の対応も素敵だ。

そして、金三郎は久しぶりに両親の許を訪れる。勘当された身という後ろめたさはあったろうが、やはり血の繋がった親兄弟と会える喜びは一入だったろう。母や兄は素直に喜んだ一方で、父親は体裁上「他人の空似だ」と強がりを言う気持ちに心が震える。だが、その袂は涙で濡れていたというのが何よりの親子の情愛だ。

その後、内匠頭の取り計らいもあって、正式な対面も済ませ、長年わだかまっていた父と息子の間のぎこちない感情も解消されたのだと思う。その上で、金三郎は「倉橋伝助」として赤穂藩に仕え、四十七士にも加わった。美談である。

夜は半蔵門に移動して、立川談笑月例独演会に行きました。4月にスタートした「慶安太平記」のきょうは第5話、ちょうど折り返しである。

「青菜」/「猿の夢」/中入り/慶安太平記 第5話「正雪暗殺/佐原重兵衛」

張孔堂の門下生に、山形出身の変わり者、戸松久太夫がいた。無筆だが、軍学を学びたいと門を叩き、正雪がどこか面白い奴だと気に入って入門を許した。

正雪が玄関前で駕籠から降りたとき、掃除をしていた久太夫が「自分は半分は百姓、半分は侍」と言い、田舎で貧乏をしている多くの百姓を救うような、世直しが出来る人が正雪だと思って、張孔堂に入った動機を話す場面は印象的だ。

庭に書面が投げ込まれ、それを拾った久太夫が正雪に渡す。その書面には「幕府転覆を狙っている由井正雪の命を頂戴する」旨が書かれていた。幕府転覆について外部に情報が漏れたことを重く見た正雪は、自分の警護を堅固にすることに。伴の者を鵜飼、鳥羽のほかに久太夫を加えることにした。また、駕籠は四ツ手駕籠、周囲を鉄板で覆う特注にした。

麻布で講義を終えた正雪が駕籠で帰ろうとしたとき、久太夫が「提灯を持った男が3人、あの植え込みに消えた」と注意を促し、鳥羽が様子を見に行った。そのとき…久太夫は自分の刀を駕籠の刀穴に突き刺す。正雪は血みどろになっているかと思うや、さにあらず、スクッと駕籠から出てきた。そして、久太夫に「委細を説明しろ」と迫る。

自分が「久太夫」だというのは偽りだが、田舎の百姓の困窮を救ってほしいという思いに嘘はない、自分がそれが出来る人物になろうかと思っていたが、その力はないことを悟った。腕があり、知能があり、人望があり、しかも運も持ち合わせている人を探していた。それが正雪先生なのだと、“久太夫”は訴える。

すると、正雪は自分は運が良いのではない、ただ知恵と用意があるのだ、だから駕籠の中に鉄の盾を入れておいた、と。“久太夫”の真の名は「奥州南部藩浪人…」と言ったところで、正雪が「佐原重兵衛だな」。正雪は“軍師”佐原重兵衛を見抜いていたのだ。「重兵衛殿、一枚乗ってくれるか?」「はい、一命を差し出します」。

3年後、由井正雪が作戦を実行しようとしたとき、佐原重兵衛は江戸の総大将に座った。計画は未遂に終わり、品川宿であわや捕縛されるところを大井まで逃げた。駿府では正雪が自害。大坂も京都も失敗した。知恵伊豆が「仲間の名前を言え」ときつい拷問をすることに対し、佐原は自ら名乗り出て、厳しい取り調べを止めるように直談判したという。

後日のことは別にして、正雪が優秀な軍師である佐原重兵衛を味方にして、その後どのように幕府転覆を狙っていくのか。来月にまた興味が繋がった。