三遊亭兼好 人形町噺し問屋
「三遊亭兼好 人形町噺し問屋」に行きました。「千両みかん」と「お化け長屋」の二席。ゲストの笑福亭由瓶師匠の「やかんなめ」も面白かった。
「千両みかん」。食べ物に季節感がなくなったとはいえ、みかんはやはり冬の果物というイメージは現代においてもある。(冷凍みかんは別だけどね)瑞々しい、艶のある、ふっくらとした…ときたら、若旦那は当然女性に恋煩いしたのだろうと番頭同様に思うけれど、大旦那は違う。番頭が「瑞々しい、艶のある、ふっくらとした…」と言うと、「みかんかい?」。この意外な反応に驚く。
これと同様、番頭が蜜柑問屋の万惣で一個だけ腐っていないみかんを入手したが、千両と値を付けられ、こんな高額なモノは大旦那に相談しなくちゃいけないと、一旦店に戻って、事情を説明すると、大旦那は「千両かい?」とピタリと何の躊躇いもなく当てるのが可笑しい。
あと、番頭が真夏の江戸をみかんを求めて彷徨い歩き、間違って床屋に入ってしまうところ、「うちは冬場もないよ」と返事が返ってくるのが妙に可笑しかった。でも、そこの床屋さんが蜜柑問屋の万惣にあるかもしれないと教えてくれたのだから、縁というのは面白いものだ。
「お化け長屋」。空き店を見て、借りに来る二人目の職人風の男が兎に角可笑しい。タヌモク!とやって来て、杢兵衛さんが怪談噺をしようとする前から、出るんだろう?と先んじてしまうから、杢兵衛さんも鼻をへし折られてしまう。
話をすれば長くなりますが…と怪談口調で話し始める杢兵衛さんに、「腹から声を出せ!」「ギュッと短く!」と指示を出して、挙句の果てに怪談噺を手短に添削してしまうのが面白い。3年目にいい女が泥棒に殺された!ガラッと開けたら、血がベッタリ!越してきて三日目、雨!これじゃあ、怖くないよねえ。
怪談作戦を失敗して、その男が越してきちゃうので、長屋全員で追い返しちゃおうとお化け屋敷作戦をする後半まで演じてくれたのが良かった。雨がシトシト、髪の毛サラサラは半ちゃんがジョウロに水を入れ忘れたり、箒を持ってくるのを忘れたりして、口で言うのが可笑しい。寺の鐘ゴーン、仏壇の鈴チーンは調子に乗ってリズミカルに陽気に叩いちゃうから、ちっとも怖くない。
棟梁が拵えた「四畳半と六畳の合いの襖が音もなく開く」仕掛けも何度も自動ドアみたいに開いたり閉まったり。最後はおとめさん89歳が幽霊になって出て来て、「ちっとも怖くない」と意気がっていた職人風の男が案外怖がりで逃げ出しちゃうという…。いかにも落語らしい展開でとても愉しかった。