古今亭菊太楼「地獄八景亡者戯」三途の川の巻&閻魔の庁の巻
鈴本演芸場6月上席夜の部七日目と八日目に行きました。今席は古今亭菊太楼が語る「地獄八景亡者戯」~地獄は楽しいことばかり~と題して、奇数日は「三途の川の巻」、偶数日は「閻魔の庁の巻」という、二日間で通しを5回繰り返す特別興行だ。
「道灌」入船亭辰ぢろ/「手紙無筆」古今亭菊正/ジャグリング ストレート松浦/「牛ほめ」蝶花楼桃花/「人形買い」古今亭菊丸/紙切り 林家楽一/「茄子娘」柳家三三/「能狂言」桂文我/中入り/漫才 風藤松原/「おもち」林家きく麿/ギター漫談 ペペ桜井/「地獄八景亡者戯 三途の川の巻」古今亭菊太楼
鯖に当たってあの世逝きとなった金さんが歩いていると、前に伊勢屋の隠居が歩いている。金さんは隠居の弔いの手伝いをしたのに、追いついてしまったのは、隠居がリウマチを患っているためにゆっくり歩いていたから。金さんの心残りは、一緒になって2年しか経っていないおかみさんかい?と問われ、いいえ、棚に仕舞った鯖の切り身だと返すのが暢気でいい。隠居は軽業師の綱渡りが落ちてきて、頭と頭がぶつかって死んでしまったというのは貰い事故で可哀想だ。
その後ろを賑やかに三途の川に向かっている集団がいる。金満家の若旦那がやりたいことはし尽したから、あとは死ぬだけと河豚を食べて死んだというのは、いかにも落語的世界。若旦那が死ぬなら私も一緒にお伴しましょう、と芸者や幇間までもが付いてきた…。
三途の川の手前で亡者の衣服を剥ぎ取る、葬頭河(しょうずか)の婆、別名奪衣婆は明治維新で廃止になったという。婆の労働組合が騒いで、彼女たちは生活保護を受けるようになったが、それを資本に事業を起こしたとか。テレビショッピングをはじめた高田の婆は成功したが、夢グループの支援を受けた湯婆グループは失敗して高田の婆に助けてもらったというのも可笑しい。
三途の川は一時期、閻魔大王が経営する化学工場の出すダイオ(ウ)キシンで汚染されたが、50年前に川の浄化に励み、今では鮭や鮎が戻ってきた。また、渡し船も原子力船になったが、もんじゅのナトリウム漏れがあって、手漕ぎ船に原点回帰したというのも面白い。
渡し船の渡し賃は船頭の鬼が、一人一人の亡者から死因を訊いて決める。痔で死んだ男は血がドクドクと出た、6×6で36円、いや3600円!100倍になったのはエン(マ)フレで物価が高騰したから。腎臓病の人はシーシーで1600円、コレラの人は腹を下すからピチピチで4900円、さらにばい菌で9800円、鯖に当たった金さんはサンバで2400円…。
スーツを着た元総理大臣だという国会議員は、選挙応援していたときに、後ろでパンパンとタイヤがパンクしたような音がして、死んでしまったというのは、ちょっと洒落にならないかも。「地獄タイムス」によれば、桜を見る会やモリカケ問題で恨みを買ったが、「あなたは乗る船を間違えた」と、特別待遇のジェットボートを案内され、地獄へ直行という…。その男は「私は国民のために頑張った」というのだが。
渡し船が岸に到着して、亡者たちは六道の辻へと向かうところで、明日の「閻魔の庁の巻」に続く、と終わった。
「芋俵」柳亭市助/「寿限無」古今亭菊正/ジャグリング ストレート松浦/「たがや」古今亭菊丸/「親子酒」春風亭一蔵/紙切り 林家楽一/「しの字嫌い」柳家三三/「田舎芝居」桂文我/中入り/漫才 風藤松原/「弟子の強飯」春風亭百栄/ギター漫談 ペペ桜井/「地獄八景亡者戯 閻魔の庁の巻」古今亭菊太楼
亡者たちは三途の川を渡ると、冥途で一番賑やかな六道の辻に出る。案内人によると、ここから四十九日以内に閻魔様のお裁きを受ければ良くて、色々と観光できるという。ただし、四十九日を1日でも過ぎると、娑婆に返されてしまい、生涯浮かばれないので、気を付けてくださいとのこと。
お勧めは、スパリゾート六道。温泉に浸かりながら、幽霊のラインダンスを見ることができる。三途の川リバーサイドホテルでは夕食後に骸骨のストリップショーを見ることができる。若旦那と幇間・芸者の一行はスパリゾート六道へ。
六道の辻は文字通り、道が6つに分かれている。真ん中のメインストリートは冥途通り(明治通りじゃない!)で、官庁や銀行が立ち並ぶ。人気のある銀行はシビトモ銀行、ユウ(幽)チョ銀行。文化会館もあり、きょうは「戒名のない音楽会」が開かれている。芝居小屋では、仮名手本忠臣蔵の通し狂言を初代から12代目までの團十郎が勢揃いで配役されているから、大向こうは全部「成田屋!」という。客席では浅野内匠頭と大石内蔵助が涙しながら観ている。
寄席も地獄花月で三遊亭圓朝が「怪談牡丹燈籠」を連続読みで掛けている。人形町末廣では、米朝・枝雀親子会、志ん生・文楽二人会、圓生独演会。東宝演芸場では、二代目古今亭圓菊がトリを取り、志ん朝や談志、小さんも出ている。ペペ桜井は「近日来演」(笑)。
念仏町で念仏を買うことを勧められる。値が高い念仏を購入すると、閻魔様の詮議で有利に働くという。浄土真宗は南無阿弥陀仏、日蓮宗は南妙法蓮華経、真言宗はオンガボキャー…。天理教やPL教団もある。店の前で高い壷やアクセサリーを売っているが、「無視してください」。
閻魔の庁に到着すると、沢山の亡者たちが開門を待っている。聞けば、お裁きは毎日やっているわけではない、お役所仕事だからと。本日はお裁きがあるらしいという噂があり、亡者たちが押しかけているのだ。
閻魔大王、登場。本日の詮議は先代閻魔千年忌につき、「一芸のある者は極楽に行ける」という。座布団を廻す者(実際に菊太楼師匠実演)が現われたが、下手すぎて、「地獄行きだ!」(笑)。落語を演じて笑わすという者が現われるが、「地獄八景亡者戯 三途の川の巻」を演りはじめて、「また同じところに戻ってしまうじゃないか!」(笑)。鬼を呼び寄せ、来年の話をして笑わせるとかも。
医者、山伏、歯抜き師、軽業師の4人が地獄行きとなった。まずは熱湯へ入れられるが、山伏が術を使い、日向水にしてしまい、湯加減の良い風呂に入っている心持ちに。針の山は軽業師が他の3人を背中に乗せて、ヒョイヒョイと登り、下る。それではと、閻魔大王は人呑鬼(じんどんき)に4人を食べてしまえと指示する。
そこで歯抜き師が人呑鬼の歯を全部抜いてしまい、噛まれずに胃袋の中へ。すると、医者がメスで胃の壁を切って、脱出。疝気の筋、くしゃみの筋、笑いの膜、屁の袋、喉笛を4人で同時に引っ張ったから、人呑鬼は悶絶。「こりゃあ叶わない」と便所で踏ん張ると、肛門にへばり付いていた4人は見事に体外に飛び出すことに成功。先般の良い湯加減の風呂に浸かり、「極楽~」。
「地獄八景亡者戯」前半、後半45分ずつで、2日間で90分の長講。本興行のタイトルにあるように「地獄は楽しいことばかり」であった。