柳家三三独演会、そして鈴々舎馬るこ勉強会

「柳家三三独演会~初夏」に行きました。「鹿政談」「加賀の千代」「三枚起請」の三席。

「鹿政談」、正義は悪を制す。1万3千石のうちの3千石は鹿の餌料、なのに鹿にろくに餌を与えず、町人に高利で貸し付けている、代官・塚原出雲と僧侶・了全の2人の餌料横領の罪から裁かなければならないという奈良町奉行のナイスプレーが心地よい。

正直者の豆腐屋・与兵衛は罰せられるどころか、日頃から代官や寺社に虐げられている町人代表として、逆にヒーローになるという名裁き。三三師匠の噺運びの巧さと相まって、素敵な美談に仕上がった。

「加賀の千代」は甚兵衛さんが大好きな井上の隠居の反応が笑いを呼ぶ。ご隠居がいるなら、この饅頭を目にもの言わせてやってください!この饅頭は義理をかけるためのもの、どうせ食べさせてもらうなら、ご隠居の後ろの棚にある隣町の饅頭がいい!絶好調だね、甚兵衛さん!

10円借りる作戦も、全部おかみさんの種を明かししちゃうところが可愛い。本当は8円50、60銭あればいいんです。でも10円とハナから言ったら、半分の5円しか貸して貰えないと、命短し恋せよ乙女だから。20円と言えば、半分の10円貸して貰えるでしょう。こういうことはこれからもよくあることだから、ちゃんと覚えておきなさい!って。

「三枚起請」、伊之助、棟梁、清吉の騙され三人組。起請文の三枚目が清吉から出たあたりから、伊之助はそれまで怒り心頭だったのが、なぜか楽しくなっちゃうというのが、面白い。

3人で喜瀬川こと本名・中山ミツに文句を言いに吉原に向かう途中、1匹の雌犬の後ろを3匹の雄犬がついて行くのを見て、「あの犬たちも起請文貰ったのかなあ」と遠足気分なのが可笑しい。

口で騙すのが商売の花魁だけど、起請文で客を釣ろうとするのは確かにルール違反だし、喜瀬川が悪いと思うのだけれど、それをとやかく言うのではなくて、そういう狡い女に騙されてしまう男たちの悲哀を笑い飛ばすところに、この噺の魅力があるのだと思う。

帰宅して、配信で「まるらくご爆裂ドーン!~鈴々舎馬るこ勉強会」を観ました。「看板のピン」「魔法世界のたらちね」「阿武松」の三席。

「魔法世界のたらちね」、良く出来ているなあ。八五郎が嫁にもらったタミコさんは、ファンタジーの世界に生きていると思い込んでいるという…。わが名はフェンネル、魔族の末裔なり。父は京都の産にして…の言い立てもファンタジー世界の呪文のよう。亭主の八五郎のことをベルゼブブと呼ぶのまで含めて、面白い!

「阿武松」は、馬るこ師匠の体格と、かつて阿武松部屋で取材した体験を基に語るから説得力がある。四股の大切さ、ぶつかり稽古の厳しさ。兎に角、足腰を鍛えることが相撲の稽古の基本というのも納得。

長吉が武隈部屋を破門になるところも、単に飯の食いすぎと片づけるのではなく、いかに兄弟子のしごき、いじめが凄かったかを描いた上で、その為にこれまで1日五升食べていたのが、七升に増えたという。それで女将さんが親方に進言して辞めさせられた。また、飲み屋で暴れた兄弟子の濡れ衣を着せられたというのが加わったのも説得力があった。

恩人の一人が東海道川崎宿の橘屋善兵衛の主人。自分が米を部屋に届ける、だから弟子に取ってくれと錣山親方に頼む。そして、「土俵の上で武隈を見返してやれ。それが私への恩返しだ」と言う台詞が素敵だ。

もう一人は錣山親方。相撲好きの橘屋さんだったら、体を見なくても弟子に取ると言ってくれた。その上で長吉の体を見て、「いい!この人は相撲にいい!」と太鼓判を押す。後に六代横綱阿武松緑之助になるほどの逸材と見抜いていたのだろう。

遺恨相撲をたっぷりと描いたのが良かった。少しプロレスが入っていたのはご愛嬌だけれども、武隈部屋時代の兄弟子の卑劣な攻撃にもビクともせず、投げ倒す。稽古もろうた兄弟子投げりゃ相撲仲間の恩返し。最後は武隈をも土俵に這わせる、立派な小柳長吉の相撲ぶりが目に見えるような、とても素晴らしい熱演の高座だった。