「与話情浮名横櫛」三幕

歌舞伎座で鳳凰祭四月大歌舞伎夜の部を観ました。「与話情浮名横櫛」と「連獅子」の2本。玉三郎がお富、仁左衛門が与三郎というニザタマコンビ、去年6月に上演を予定していたが、仁左衛門丈の体調不良により、今月に延期となった演目だ。今月2日に初日を迎えたが、5日から仁左衛門丈が体調不良ということで7日まで休演して心配されたが、8日から舞台復帰を果たしてニザタマコンビの「与話情浮名横櫛」が観劇できたことが嬉しい。体調にはくれぐれもご注意いただいて、いつまでもお元気な舞台を見せて頂きたいと強く思う。

「連獅子」は、親獅子が尾上松緑、仔獅子が尾上左近という実の親子の共演で、勇壮かつ華麗な毛振りを披露してくれた。特に左近丈が物凄い激しい毛振りを見せて(こんな激しい毛振りを僕は初めて観た)、もう脳震盪を起こすんじゃないかと心配してしまうくらいだった。拍手鳴りやまず。

「与話情浮名横櫛」、源氏店の場の前に、木更津海岸見染の場と赤間別荘の場があったのが良かった。お富と与三郎が偶然に出会う浜辺。美男美女同士が一目惚れして、心惹かれていく様子がよく分かる。特に与三郎の方は、見惚れてしまい、羽織を落としても気づかないで、お富の後ろ姿をいつまでも見つめているのが印象的だ。

そして、赤間別荘の場。お富が与三郎に文を送り、それで与三郎は忍んでやって来る。密会だ。忍び遭う、というのはこういうことを言うのだろう。だが、お富の世話をしている赤間源左衛門の別荘という危険性を孕んでいる。お富の方が相当な遣り手と見た。与三郎は世間知らずの若旦那だ。これが刺激的なのかもしれないが、やはり最後は見つかってしまう。

「よくも俺の顔に泥を塗ってくれたな!」。与三郎は顔も体も斬りつけられ、三十四か所の傷を負う。だが、止めは刺さないで半殺しで、簀巻きにして、海に沈める。そして、お富も逃げ出して、木更津の海に身投げをした…。

はずだったが、和泉屋多左衛門に命を救われた。これが芝居のポイントだ。源氏店とは、多左衛門の妾宅。そこに囲われて、お富は暮らしている。ここからが源氏店の場。

そこに蝙蝠安が訪ねてくる。いつもの小遣い金の無心だ。いつもと違うのは、身体中が傷だらけの男を連れていること。この男こそ、誰あろう与三郎。蝙蝠安は一分を貰って帰ろうとするが、この男は「百両貰っても帰られねえ」と言う。頬被りを取って、顔を見せる与三郎に対し、お富は驚きを隠せない。だって、三年前に死んだと聞いていたから…。それはお互い様だけれども。

与三郎にとってみれば、お富との恋ゆえに、心ならずも今の身の上になった。だが、お富はどうだ。囲われ者となって、安穏と暮らしているじゃないか。与三郎は散々に悪態をつく。「しがねえ恋の情けが仇…」だ。

お富が必死で事情を説明しているところに、その命の恩人である多左衛門が現われる。この多左衛門が非常に人間のできた人。旧知の蝙蝠安に説教し、与三郎にも金を渡して宥め、一度出直すように頼む。そして、二人組が帰った後に、お富に守り袋を渡して、去って行く。その守り袋には、多左衛門がお富の実の兄だという証拠が入っていた…。

なるほど、多左衛門はお富を救出して、3年という間、この妾宅に囲っていたが、お富の身体ひとつ触れようとはしなかった。それには、理由があったのだ!帰ったふりをして、裏口から入ってきた与三郎に抱かれるお富の心情やいかに。どこかハッピーエンドな空気で終わる幕切れだが、基になった講談ではそう一筋縄にはならない。歌舞伎でも、いつかこの続編を作って上演されないだろうか。