末廣亭 五代目江戸家猫八襲名披露興行

末廣亭で五代目江戸家猫八襲名披露興行四日目を観ました。落語協会黙認誌「そろそろ」第3号の巻頭特集で、猫八先生はインタビューに答える形で、自分の寄席におけるネタの構成について、こう興味深い発言をしている。

自分の芸に引き寄せて説明するとしたら「動物園」を経営している感覚です。自分が園長になって、それぞれの動物の魅力をどう見せるか。今日のお客さんにはこの組み合わせで見てもらおう。そのプランを毎回の高座で変えています。

三代目とも、四代目とも違う芸風を創造し、今後益々進化させていくであろう五代目の真髄を表している言葉だと思った。

「子ほめ」柳亭市助/「寄合酒」三遊亭伊織/漫才 ニックス/「悋気の独楽」柳家一琴/「持参金」入船亭扇好/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「初天神」春風亭一之輔/「禁酒番屋」林家たい平/浮世節 立花家橘之助/「転宅」柳亭市馬/中入り/披露口上/「浮世床~本」橘家圓太郎/「替り目」古今亭菊之丞/紙切り 林家正楽/「家見舞」入船亭扇遊/ものまね 江戸家猫八

口上の並びは、下手から菊之丞、たい平、橘之助、猫八、正楽、扇遊、市馬。司会の菊之丞師匠が、お客様皆さまからご祝儀を頂けるのが本人にとっても何よりの励みになります、この場合のご祝儀というのは拍手です、猫もおだてりゃあ木に登るなんて申しまして、と洒落のめす。

たい平師匠は、学校寄席、芸術鑑賞教室の仕事があるときには、この猫八さんに必ず声を掛けることにしていると。それは、将来のお客様を育てる大切な仕事だから。それが証拠に、教室が終わると、学校のあちこちでサカリのついた猫のような声が聞こえてくる。猫八さんの芸は、噺家とは違って老若男女、万国共通の芸ということ、と讃えた。

橘之助師匠は、先代の圓歌師匠が四代目が早逝したときに、お別れの会の席で、もう車椅子だったけれど、「俺の目の黒いうちに五代目を継いでくれ」と言っていた、それは叶わなかったけれどと回顧する。そして、この人は眼鏡を取るといい男なのよ!と言って、趣味の動物園巡りに付き合ってくれる彼女を探さないとね!と冗談めかして言った。

正楽師匠は、司会に「寄席の宝」と紹介されると、それほどでもないですよ、ほんのちょっと先輩というだけとあくまで謙虚に語る。私は寄席の世界に染まるのに時間がかかったけど、この人はまだ12年くらいなのに、寄席に染まっていて、それは自然と身に付いたものだが、その陰で努力しているのだと思うと褒めた。それは、世界に羽ばたいている大谷翔平のようだ、とも。

扇遊師匠は、シン・ゴジラ、シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダーが出ているように、シン・猫八だと称した。ウグイスというのは鳥だが、声の良い人という意味もあって、ウグイス芸者、ウグイス嬢という言葉もあるように、寄席の華だと讃え、一句詠んだ。江戸家鳴く 春告げ鳥が 舞い上がり。

市馬師匠は、歴代の猫八の功績があればこその、この襲名だと言った後、「真ちゃん!お父ちゃんのお陰だぞ」と声をかけた。四代目が66歳で他界してしまった分、親孝行をしてほしいと期待を述べた。これから入門してくる若者たちが、いつか真打になったときの披露目の膝代わりには是非、猫八先生を!と夢をみるような存在になってほしいと締めた。

猫八先生の高座。鈴本の大初日から数えると14日目だが、本人は「疲れると思ったら、逆でした。毎日、尊敬している師匠方に口上に並んでもらって、心の栄養を貰っている」と冒頭で述べた。

初春のウグイスを鳴いた後、父親と一緒にお風呂に入った思い出を語る。まだ、ウグイスの指笛を練習して1、2年だった自分はうまく音が出せなかった。すると、父が僕の小指を「貸してごらん」と言って、咥えた。と、ピーと小さな音が出た。「あなたが噛んだ小指が痛い」という笑いを取って、少し歯で噛むくらいにするとうまく鳴けるのだとコツを語った。以来、自分の指で音が出る喜びを噛みしめて、地道に練習を重ねたそうだ。

父は「俺の真似をするな。動物が師匠だ」と口癖のように言っていて、動物を観察して、その動物から教えを請うという考え方が身についたという。その後にチワワの三本締め、アシカの鳴き続けた後のため息、シマウマの本当は犬のような鳴き声を披露。羊と山羊の違いは「やる気」の違いだというのも、そうした動物観察から生まれた賜物なのだろう。

後ろ幕をゴリラの絵にしてもらったのにも、理由があるそうだ。ゴリラはウホウホしか普通の人は思っていないが、実はコミュニケーションによって多様な声を出しているという。「申し訳ない」と「こんにちは」では、こんなにも違うと鳴き分けをして見せた。そして、猫八先生はゴリラと会話がしたいと考えたが、声だけでは駄目だろうと、顔真似を練習して、ある研究者の方に見て貰ったら、「似ていません」と言われてしまった。それで普通の顔で声だけ真似て、ゴリラに話しかけたら、返事があった。嬉しい!と思ったら、それは「あっち行け!」という威嚇の返事だった。この体験が最初に作ったサゲネタで、父親が喜んでくれたそうだ。だから、その喜びを後ろ幕にこめたそう。

フクロテナガザルの両方の足が一遍に攣ったときのオジサンの叫び声で笑いを取ったあと、女の子にクラゲという注文をされたときの咄嗟の閃きで鳴いた声を披露。本当は鳴かないクラゲの声に対し、そのときの女の子が「そっくり!」と喜んだ素直な気持ちを大切にしたいという猫八先生の高座に向かう姿勢に心が沁みた。

そして、最後はもう一度、初春のウグイス。そのときに、口上で披露した扇遊師匠の俳句「江戸家鳴く 春告げ鳥が 舞い上がり」を詠んでから鳴いたのが印象的だった。