仮名手本忠臣蔵 十段目 「天川屋義平内の場」、そして柳家喬太郎「ハワイの雪」

歌舞伎座で三月大歌舞伎第二部を観ました。「仮名手本忠臣蔵 十段目 天川屋義平内の場」と「身替座禅」の2演目。「身替座禅」は、山蔭右京に尾上松緑、奥方玉の井に中村鴈治郎の組み合わせだ。当初、右京は尾上菊五郎が勤める予定だったが、病気療養のため休演し、松緑が勤めたが、これが非常にコミカルで良かった。僕の中では、平成26年3月歌舞伎座で、右京を菊五郎、玉の井を吉右衛門が演じたときに、「身替座禅」って面白い!と思った印象が強いが、今回の組み合わせもなかなかに面白かった。

十段目「天川屋義平内の場」、今回のように単独で上演されるのは過去に例がないらしい。僕は平成28年に仮名手本忠臣蔵を国立劇場で全段通しで上演したときに、観て以来2回目だ。歌舞伎座で十段目が上演されるのは、昭和40年まで遡る。そのときは天川屋義平を八代目坂東三津五郎が演じている。今回の義平は、中村芝翫だ。

この芝居の眼目は義平の義侠心だというのは言わずもがなだ。大星由良之助の依頼を受け、討ち入りに必要な武具を調達する義平は、由良之助たちの討ち入りの企てが漏れるのを恐れ、妻のおそのを離縁し、由良之助との約束を守ろうとする。

だが、ちょっと待って…と僕が個人的に思うのは、この義平の義侠心を由良之助ら塩冶浪士たちが試している筋立てになっている。すなわち、捕手と偽って店に押し入り、傍らの長持を開けようとする。さらに、義平がこれを拒むと息子の由松を引き立て、その喉元に刀を突き付ける。

それでも義平は塩冶浪士に加担していることを白状せず、たとえ由松が殺されても身に覚えがないことと抗い、長持の蓋を開けることを拒む。有名な台詞、天川屋義平は男でござる!

すると、長持の中から大星由良之助が現れて…、義平はホッと一安心というわけだ。由良之助は同士の中に疑心を抱く者がいたので、心ならずも義平の心底を確かめようとしたと説明する。そして、武士にも勝る義平の志を目の当たりにした由良之助は、その非礼を詫びる。

でもさあ、由良之助さん、こっちも命懸けで応援しようとしているのに、悪い冗談はやめてくださいよ!と僕が義平だったら、ちょっと文句の一つも言いたいところだなあ。

救われるのは、由良之助が差し出した礼物は金ではなく、義平の妻おそのの切り髪と離縁状だったということ。秘密を守るためにおそのを離縁しようとした義平の義侠心に感謝し、そんな義平への貞節を守ろうと髪を切ったおそのに感服し、離縁は無用と語るところは、由良之助もわかっているじゃん!そして、自分たちが本懐を遂げる頃には、髪も伸びて、再び祝言を挙げるようにと告げるところも、人間味のある人なんだなあと最後に思った。

夜は原宿に移動して、「みんなの落語」に行きました。落語協会黙認誌「そろそろ」を編集している二ツ目さんたちが企画・運営している会で、若い人たちにも落語の魅力を知ってもらおうと、流行の発信地であるラフォーレ原宿で開催している落語会で、今回で6回目になるそうだ。

毎回テーマを決めて、ゲストと演目をオファーしていて、①廓 柳家三三「明烏」②芝居 古今亭文菊「七段目」③新作 三遊亭白鳥「任侠流山動物園」④滑稽 春風亭一之輔「初天神」⑤怪談 五街道雲助「もう半分」。そして、今回はテーマが「人情」で、柳家喬太郎師匠を迎えて、「ハワイの雪」を聴いていただこうという企画だ。

「他行」古今亭松ぼっくり/「存在感」春風一刀/「時そば」柳家喬太郎/中入り/「三方一両損」&かっぽれ 林家けい木/「ハワイの雪」柳家喬太郎/アフタートーク

「ハワイの雪」のラストシーンは毎回聴くたびに良いなあと思う。留吉が千恵子と再会する場面。「そろそろらしいな」「悔しいわ。私の方が二つ年下なのに」「いい人生だったらしいな」「そう。良い人に出会って、子どもや孫にも恵まれました」「わしも良いかみさんをもらって、幸せだった。お前みたいなじゃじゃ馬と一緒にならなくて良かったよ」「あら、ご挨拶ね」。

そして、常夏のハワイに珍しい雪が降って、留吉の掌に積もった雪を千恵子の手も借りて、一緒に雪かきをする。「今度、生まれ変わったら、同じ土地、同じ年廻りで生まれて、夫婦になろう」「きっとよ」。そして、千恵子は天国に召される…。「わしもおっつけ、行くからな。待っていてくれよ」。

雪の相方のお囃子が入って、雰囲気が良いというのもあるが、喬太郎師匠が変に湿っぽく演じていないところが逆に胸に響く。これはアフタートークでおっしゃっていたのだが、「師匠・さん喬があそこは明るく演った方がいいよ」とアドバイスしてくれたそうだ。

この二ツ目さん企画運営の「みんなの落語」は今回でシーズン1が終了だそうだ。喬太郎師匠が「僕らが二ツ目の頃は落語以外の仕事をしないと食べていけなかった。今は、こうやって、二ツ目さんたちが自分たちの力で落語を盛り上げることができる時代になった。心強いです」とエールを送っていたのが印象的だった。「みんなの落語」シーズン2に期待したい。