日本浪曲協会二月定席二日目、そしてYEBISU亭70回記念
木馬亭で日本浪曲協会二月定席二日目を観ました。12時15分開演で、16時終演だから、お昼を食べないで入場すると、主任の前辺りで空腹を激しく覚える。きょうは開演前に翁そばで昼食を済まそうと、開店時刻の11時45分を目指して自宅を出た。その10分前に店の前に着くと、誰も並んでいなかったが、すぐに僕の後ろに行列が出来て、開店と同時に店内は満席となった。カレー南蛮そばを食べて、お会計を済ませ、木馬亭に入場したのが12時10分。このスタイルが一番良いようだ。
「寛永三馬術 愛宕山梅花の誉れ」玉川奈みほ・沢村豊子/「姥捨ての雪」富士実子・伊丹秀敏/「夢の女」澤雪絵・佐藤貴美江/「天保水滸伝 鹿島の棒祭り」玉川奈々福・沢村まみ/中入り/「母の幸せ」天中軒月子・沢村豊子/「北条政子」神田蘭/「開花鰻草紙」澤順子・佐藤貴美江/「継母の誠」東家三楽・伊丹秀敏
奈みほさん、力いっぱいに声を出しているのが良い。編集して、前座の持ち時間15分で見事に曲垣平九郎が愛宕山の最上階まで登り切った。奈みほの師匠である奈々福先生は堂々の高座。玉川のお家芸を澄み切った、力強く伸びやかな声で唸ると、とても気持ち良くなれる。
雪絵さんの「夢の女」は、大西信行先生が落語「夢の酒」を浪曲として脚色したもの。「あなたは女性なんだから、女性の目線で書いたよ」と言ってくれたそうだ。現実世界は大旦那と嫁しか出てこず、亭主である若旦那が出てこない。二人のやりとりの中で、夢の内容が語られるのだが、何より嫁の悋気を強調していないのが、落語との大きな違いだ。夢の中の茶店の女性に対し、こんがりと嫉妬する嫁を温かく包む大旦那の器の大きさが印象的だった。
三楽先生は、「この世で一番素晴らしいのは、親子の愛情だ」と述べてから、「継母の誠」に入った。幼い頃から手癖が悪く、人様の物を盗んでくる息子・善吉。この子をどう躾ればよいのか。父親の吉兵衛はとうとう手を焼いてしまい三囲稲荷の鳥居に縛り付け、善吉を殺し、自分も死のうとする。
それを寸でのところで止めた継母のお辰は、善吉の躾は私に任せてくれと吉兵衛に懇願する。そして、愛情をかけて善吉を2年間躾けた上で、伊勢屋に奉公に出そうと提案する。また盗み癖が出るのではないかと心配した吉兵衛だったが…。
心配はなんのその、優秀な丁稚として働いた。主人に見込まれて、暖簾分けした先輩の店を諸事情あって善吉に任せても良いかと言われるようにまでに成長する。継母だからこそ、逆に実の母親以上に愛情をかけた。だから、手癖の悪かった息子は立派な商人になるほどの清廉潔白な人物に育てることができたのだなあと思った。
夜は恵比寿に移動して、YEBISU亭に行きました。まあくまさこさんがプロデュースする恵比寿ガーデンプレイスでの落語会の70回記念である。レギュラーメンバーの柳家喬太郎師匠と三遊亭兼好師匠、そしてスペシャルゲストとして津軽三味線奏者の上妻宏光さんを招いての記念の回となった。
毎回、この会は必ず落語とは違うエンターテインメントやカルチャーの世界で活躍されている方をゲストに招いているのが特徴で、オープニングで寸劇をやったり、「今夜踊ろう」というトークコーナーで語り合ったりして、異分野の融合を楽しもうという、まあくプロデューサーの意図が興味深い。
特に今回は記念の回ということで、上妻さんが兼好師匠の落語に参加するという試みがなされた。これまでも、上妻さんは三遊亭白鳥師匠の「雪国たちきり」の中で津軽よされ節を弾いて、見事な融合をしたことがある。また、日野皓正さんが、記念回のために喬太郎師匠が創作した「月夜の音」という落語の中でトランペットを吹いて音曲噺に仕立てたこともあり、とても感動したのを覚えている。
で、今回は兼好師匠の「不動坊」に、上妻さんの三味線が入った。噺家に幽霊役になってもらい、吉公を脅かすという場面。チンドン屋の万さんが本来だったら太鼓を叩いてウスドロというところ、三味線で幽霊三重を弾くという演出にした。
だが、工夫はこれだけではなかった。幽霊三重の前に、激しいビートの効いた演奏をしてしまい、「違う!もっと寂しいやつ」と言われ、次は♬仰げば尊し~を弾いてしまうという演出で笑いを取る。それで、ようやく幽霊三重となる。寄席のお囃子さんの幽霊三重は聴いたことがあるが、津軽三味線の幽霊三重は初めてだ(笑)。
“新感覚落語”を謳ってスタートしたのが22年前。普通のホール落語とは一味違う落語会、YEBISU亭は70回を数えたが、まだまだこれからも僕たちを楽しませてくれそうだ。