弁財亭和泉初主任興行、そして「落語の仮面」第2話
池袋演芸場で一月下席昼の部八日目を観ました。弁財亭和泉師匠が真打に昇進して初めての主任興行である。2021年3月に昇進したから、1年10ヶ月での達成だ。同時に真打に昇進した5人の中では、春風亭柳枝師匠に続いて2人目だ。10日間興行の主任というのは、人気と実力を兼ね備えていなければ勤まらない。それを席亭が認めたということだから、本当に喜ばしいことだ。
「元犬」林家十八/「愛を詰め替えて」三遊亭青森/「ゾンビちゃん」三遊亭れん生/「ロボット長短」林家きく麿/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「あくび指南」柳家小せん/「初天神」三遊亭天どん/中入り/「ママチャリきょうこ」柳家花いち/「田能久」入船亭扇辰/奇術 アサダ二世/「おじいせん」弁財亭和泉
青森さん、傑作。シャンプーの陽一とコンディショナーの椿の恋愛模様。主人の山本さん、36歳独身が最近育毛用のシャンプーを購入したことで、二人の別れが訪れる予兆が…。ボディーソープの源さんが仲介役に入るのも面白い。
れん生師匠、鑑賞の心得。Aは笑顔を絶やさずに。Bはビックリしないこと。Cはシーンとしないこと。きく麿師匠、♬寄席出る日~とヨーデルを唄うのが楽しい。ロボットゆえに動きがウィーン、ウィーンと緩慢なところに、八五郎は苛々するが、ちゃんと存在を認めてあげている優しさがあるのがいい。
えいじ先生、隠れキリシタンのネタ可笑しい。イヌ派?ネコ派?カメカメハ!右利き?左利き?ワイキキ!マニアックでごめんね、色々な志村喬の物真似がイイネ!小せん師匠、古典でいいのかしら?と戸惑う楽しさ。風林火山から山のあくび、冥王星はなくなって、ハレー彗星のあくび、と色々と遊んでいる。
天どん師匠、赤の着物に赤の羽織。カラーひよこ、確かに昔は縁日で売っていたのを覚えている。花いち師匠、インドネシアの郵便局員(昇太師匠談)。反対俥の韋駄天みたいに、ママチャリを飛ばす京子さんが楽しい。
扇辰師匠、端正。民話風味のほのぼのした味わい。途中、久兵衛さんが小屋でおむすびを食べる仕草を丁寧に演っていたのが良かった。アサダ先生、きょうはちゃんとやりますよ。トランプの手品、ちゃんとタネを見せてくれた。風船を割るのは、あれは奇術なのか(笑)。
和泉師匠、久々の作品を聴けて嬉しかった。ダメ男体質のミキコとは対照的なアイコの老け専の好みが愉しい。マミマミに至っては、ゴスロリファッションなのに、ビジュアル系バンドマンではなく、年金受給者の儚さが好きというギャップの面白さ。シワシワ、カサカサが堪らないという嗜好、あっても良いではないか!
帰宅後、配信で「弁財亭和泉の挑戦!『落語の仮面』全十話」を観ました。先月から始まった、全十話を10ヶ月かけて高座にかけて、配信もするという試み。今回は第2話「嵐の初天神」。
大東芸能の陰謀で楽屋入りが叶わなくなった三遊亭花は、月影先生の指示で公園で落語修行を始めたが…そこに、立川あゆみというサラブレッドのライバルが出現。二人は「前座落語選手権」で争うことになる…という展開。
和泉師匠の凄いところは、花、あゆみ、月影先生、3人の女性の演じ分けがきちんとできていることだ。花には初々しさや素朴さがあり、あゆみには英才教育を受けたエリート感がある。そして、月影先生にはカリスマ的存在感がある。
「初天神」を掛けることにした花への月影先生のスパルタ指導が良い。団子を欲しがる金坊が駄々をこねるところに、“飢餓の心”がないといけないと言って、2日間押し入れに閉じ込めて、花を空腹にして、目の前に団子をちらつかせる訓練にリアリティがある。
選手権本番の高座、金坊が甘いものを欲しいと彷徨い、アリが群がっているところの土を丸めて団子にして口にするところ、花の目が異次元にいってしまっている表現が和泉師匠は実に上手い。そして、団子を買ってくれと父親に要求する姿も常軌を逸している様子を巧みに演じている。花と和泉師匠が同化している、というのであろうか。すごい。三遊亭白鳥師匠の作品ではあるが、これを和泉師匠が「自分の噺にしている」というのはこういうことであろう。