【アナザーストーリーズ】立花隆vs.田中角栄(3)
NHK―BSプレミアムの録画で「アナザーストーリーズ 立花隆vs.田中角栄」を観ました。
きのうのつづき
分析から見えてきたのは、例えば田中ファミリーの幽霊会社が安価で買った土地は、狙ったように新潟大学の用地として3倍以上の値で買い取られていた。他にも柏崎刈羽原発や新潟県立公園、住宅公団などの予定地を、いずれも公的機関が高価で買い取り、ファミリー企業に巨大な利益をもたらしている。
立花の調査はこれらが幽霊企業であることを暴き、田中金脈の構造を明らかにしたのだ。さらに一方、田中の政治団体から61名の派閥議員に100万から1億5000万もの金が配られていたことも明かす。これはあくまで誰もが入手できる表のデータ分析で見えた事実。立花は氷山の一角と語る。つまり、ここには見えてこない裏の金の動きがまだあることを示唆していた。
立花の調査はオープンソースインテリジェンス(合法的に入手できる情報から分析する調査)という、ネット時代の今ではよくおこなわれている手法だ。
ジャーナリストの立岩陽一郎は立花が成し遂げた事の大きさをこう語る。
その後、われわれが調査報道というものが出てくるけれども、やっぱり未だに色褪せない。しかも対象が極めて大きな力を持った人である。その力に対して一歩一歩迫っていこうと思った意識の高さはすごいとしか言いようがない。
立岩が代表を務める政治資金センターのホームページ。日本中の国会議員の政治資金収支報告書が集約され、誰でもアクセスできる。これもオープンソースインテリジェンスの一つだ。
ただ、そのデータが3年間しか公開されないので、われわれはこれをダウンロードして貼り付けていくことによって、何年経ってもちゃんと確認できますよと。
収支報告書から判る政策活動費。与野党から議員に配られる。ここから生まれた報道もある。例えば2019年の自民党の支出。最も高額な二階幹事長に配られた額を見ると、年間総額およそ10億円が渡ったことがわかる。
こちらは二階議員自身の収支報告書。その10億円は載っていない。収支の額が合わないということは野党でも見られる。現行法では、受け取った個人が金額を公開する義務はないのだ。
オープンソースインテリジェンスによって、何が公開されていないか、見えないものが見えてくる。その一つの例だ。
立岩は言う。
まさに立花さんがやったようなことを複合的に見ていく、それが今、われわれに求められているメディアの役割だと思うので。
誰もが常に無料で政治資金を監視できるように、このホームページは有志による公益財団によって支えられている。
立花の時代はこれを一つ一つ足で集めていたのだ。立花は対談の席で、この調査方法についてこう語っている。
ユニークでもなんでもないんです。CIAや今の本当のスパイ組織がやっているのと(略)同じことなのです。(「田中角栄研究全記録」より)
立花の調査が佳境を迎えていた頃、編集長の田中健五には一つの懸念があったという。2年前、「文藝春秋」が報じた記事で角栄は番記者にこう放言したとされる。
政界エピソードを書くときは、おちゃらかしはいかん。俺は各社全部の内容を知っている。その気になれば、コレ(首に)だってできる。弾圧だってできる。
マスコミを自分の都合(略)で考えている。なら非常に危険である…。(「田中角栄研究全記録」より)
このまま何もなく進むはずはない。田中健五は立花とは別にもう一つの角栄ネタを走らせていた。越山会の女王と呼ばれる謎の女性のルポだった。
つづく