真山隼人「徂徠豆腐」名作は東西の垣根を越えて、一門の壁を超えて継承されてほしい
木馬亭で「真山隼人ツキイチ独演会」を観ました。(2022・06・05)
隼人さんはこの日、ネタ出ししていた「元禄十三年 能登守と外記」と「善悪二人小僧」を中入りまで演ってしまい、中入り後は予定になかった「徂徠豆腐」をうなった。
東家浦太郎、澤孝子という浪曲界のトップを相次いで失ったショックは、関西を拠点に活動している隼人さんにとっても大変ショックだったようで、二人との思い出を話した。
澤孝子師匠には大阪に来てもらい、ゲスト出演をしてもらったこともあると。お酒の大好きな師匠で、それも実に「強い」から、相手をしているこちらの方がヘベレケになってしまったそうだ。
それでもとことん付き合った隼人さんを気に入ったのか、それとも彼の将来性を見込んだのか、澤師匠はこの「徂徠豆腐」、あなたにあげるわよ!と言ってくれたのだという。まだ1年ちょっと前のことだったのに、と。
原則、「一門のネタは触らない」ようにしているのだけれど、と断って、この日、隼人さんは万感の思いを胸に、「徂徠豆腐」をうなった。
「冷奴の先生!」「何より骨はないし、皮を剥く手間もない」「覚えておらんか?細かいものがないのに、大きなものがあるわけがないだろう」…、僕が澤師匠で聴いたフレーズが、真山隼人という若い有望な浪曲師によって再現されると、聴いているこちらも万感胸に迫るものがあった。
「徂徠豆腐」、いい浪曲である。もちろん、澤雪絵さんや、今年広沢菊春を襲名する澤勇人さんも継承していくだろうが、このように関東と関西と垣根を越えて、いやもっと言うと、「一門の芸」という固定概念を超えて、イイモノはいい!と若手がどんどん演じられるようになってほしい。
未来の浪曲界の繁栄のためにも、名作は多くの演者に継承されてほしいと思う。