【文楽5月公演 第1部】「義経千本桜」素晴らしかった“四の切”、織太夫が、勘十郎が。

国立劇場小劇場で「人形浄瑠璃文楽5月公演 第1部」を観ました。(2022・05・19)

「義経千本桜」伏見稲荷の段~道行初音旅~河連法眼館の段。

やはり、「河連法眼館の段」の「四の切」だろう。今回、本当は「豊竹咲太夫文化功労者顕彰記念」と冠してあるように、この「四の切」を咲太夫の代表作として語るはずだったのが、残念ながら病気休演。そのため、弟子の竹本織太夫が代演したのが、これが実に素晴らしかった。人形遣いの桐竹勘十郎が忠信実は源九郎狐を遣って、これがまた素晴らしく、見ごたえのある「四の切」になった。

法眼館にいる義経を本物の佐藤忠信が訪ね、静御前が旅を共にした忠信は贋者だったことが判明。静御前によれば、その「忠信」は初音の鼓を打てば必ず姿を見せ、鼓の音に聞き入っていたという。そこで義経は静御前に鼓を打って贋の多忠信を詮議するように命じる。

静御前が初音の鼓を打ち始めると、どこからともなく忠信が姿を現す。正体を明かすよう迫る静御前に、贋の忠信が身の上を語るところが見どころ、聴きどころだ。

桓武天皇の時代、干ばつが続いたときに、千年生きた雄狐と雌狐が狩り出され、その皮で雨乞いに用いる鼓が作られた。この鼓を日に向かって打つと、たちまち雨が降り出し、百姓たちが喜びの声をあげた。贋の忠信は、自分はその鼓の子、実は狐なのだと打ち明ける。

初音の鼓は平家討伐の恩賞として義経に下賜され、静御前の手にわたった。子狐は、鼓になった両親に孝行をしたいと、忠信に化けて鼓に寄り添っていたのだ。しかし、自分がいては本物の忠信に迷惑がかかるので、義経から譲られた「源九郎」の名を思い出に古巣へ帰ると言って、姿を消す。

この一部始終を聞いた義経は、生まれて間もなく父義朝を殺され、今は兄頼朝に見捨てられた、肉親の縁の薄い我が身を源九郎狐に重ね合わせる。哀れに思った義経は静御前に鼓を打たせるが、音が出ない。あぁ。親子の別れを悲しんでいるのか。

すると、源九郎狐が再び姿を現す。このときの勘十郎の人形遣いの巧みさに舌を巻く。義経は静御前に付き添っていた褒美として、初音の鼓を源九郎狐に与える。そのときの源九郎狐の喜びようの表現も素晴らしい。最後は宙乗りで、桜の花びらが舞う中を去って行く姿が美しい。

伏見稲荷の段 豊竹靖太夫/鶴澤清志郎

道行初音旅 静御前:竹本錣太夫 狐忠信:竹本織太夫 ツレ:竹本南都太夫・竹本聖太夫・竹本文字栄太夫/竹澤宗助・野澤勝平・鶴澤寛太郎・鶴澤清公・鶴澤清允

河連法眼館の段 中 豊竹呂勢太夫/野澤錦糸 奥 竹本織太夫/鶴澤燕三 ツレ:鶴澤燕二郎

九郎判官源義経:吉田玉助 亀井六郎:吉田玉翔 駿河次郎:吉田蓑太郎 静御前:吉田蓑二郎 武蔵坊弁慶:桐竹紋秀 逸見の藤太:桐竹紋臣 忠信実は源九郎狐:桐竹勘十郎 佐藤忠信:吉田文司