【歌舞伎名作入門】「近江源氏先陣館―盛綱陣屋―」戦乱の悲劇を身替りと首実検に見た

国立劇場で「近江源氏先陣館―盛綱陣屋―」を観ました。(2022・03・04)

高綱の一子小四郎は13歳。盛綱の一子で従兄弟に当たる小三郎と初陣で戦うが、生け捕られ、北条時政の命により盛綱の陣屋に留め置かれる。しかし実は高綱には策略があり、小四郎はそれを理解した上で父の策略を成就させるべく行動したのであった。

小四郎は盛綱の考えを受けた祖母微妙から切腹するよう説得されるが、両親を恋しがり、逃げ回ってみせる。母篝火も小四郎を脱出させるべく陣屋に潜入したようにみせる。しかしそれらは全て高綱が討ち死にしたと時政に信じさせるための手立てであった。

いよいよ高綱の贋首が運び込まれてきたとき、小四郎は「父様か。さぞ口惜しかろう。わしも後から追っつきまする」と言って、切腹する。そして盛綱が首実検でその贋首を高綱の首であると主君時政に証言し、時政は信じて帰っていく。小四郎は父の策略が成功したことを喜んで絶命する。

母篝火が陣屋に来たのも、この計画が成就するのを見届けるため、つまり我が子の死を見届けるためだった。権謀術数に長けた時政を相手とする極限状態において、高綱は大きな賭けを仕掛け、高綱・小四郎という親子の連携により、時政を欺くことに成功した。

盛綱は首実検で高綱の贋首を見た時、小四郎の切腹の意味を瞬時に理解した。そして小四郎のあまりの健気さに心を打たれ、自身の切腹を覚悟して主君時政を欺くのである。盛綱は忠義の武将であり、主君時政に背く考えは持っていない。

一方敵味方に分かれてしまった弟高綱のことを常から心配し、弟に武士としての義を立てさせたいと考えていた。小四郎の決死の行動を見た時、いかに弟親子が覚悟を決め、綿密な計略を企てていたのかが分かって驚愕し、小四郎を犬死にさせまいと思ったのだ。

愛する我が子を犠牲にし、その犠牲によって重大な局面が打開された。高綱・小四郎親子の悲愴な覚悟と強固な連携を盛綱が看破し、その企てを成就させるために切腹覚悟で盛綱は主君に背く。一族に降りかかった戦乱の悲劇を「首実検」の一瞬に収斂させた見事な芝居である。

佐々木三郎兵衛盛綱:尾上菊之助 高綱一子小四郎高重:尾上丑之助 盛綱母微妙:上村吉弥 盛綱妻早瀬:中村莟玉 盛綱一子小三郎盛清:小川大晴 高綱妻篝火:中村梅枝 伊吹藤太:中村種之助 和田兵衛秀盛:中村又五郎 信楽太郎:中村萬太郎 北條時政:嵐橘三郎