【二月大歌舞伎 第3部】「鼠小僧次郎吉」蜆売り三吉を丑之助が達者に演じる姿に共感を覚えた

歌舞伎座で「二月大歌舞伎 第3部」を観ました。(2022・02・24)

「鼠小僧次郎吉」

菊之助が鼠小僧、その子息丑之助が蜆売り三吉を演じた。これは、大正14年2月に六世菊五郎と七世尾上梅幸が市村座で演じて以来、96年ぶりに親子による配役での上演だそうである。

物語は刀屋新助と恋仲の芸者お元が金を騙し取られ、身投げしようとするのを稲葉幸蔵が助けたことから始まる。稲葉幸蔵が、鼠小僧。庚申の夜に生まれた子は盗癖があると、江戸時代に言われていたそうだが、この幸蔵がまさに庚申生まれだったという、河竹黙阿弥の作品だ。

特に三幕目の「稲葉幸蔵内の場」は、講談さらに落語にもなっているから、馴染み深い。この場に出てくる蜆売り三吉を丑之助が実に達者に演じた。

雪の降りしきる中、我が家へと向かう稲葉幸蔵。その表の顔は評判の易者で平沢左膳と名乗っている。そこへ訪ねてきたのが蜆売りの三吉。芸者お元の弟だ。幸蔵が与えた百両に極印があったことから、金を盗んだ盗賊として、お元は新助と共に牢屋に入れられた。

そのため、新助とお元に金を与えたという泥棒の行方を占って欲しいと三吉が頼む。これを聞いた幸蔵は、泥棒はすぐに見つかると答え、金を与えようとするが、姉の二の舞になることを恐れて、三吉は金を受け取ることを拒む。これを諭して金を与えた幸蔵は、三吉を見送りながら、自分のせいで新助やお元を窮地に追い込んでしまったと後悔する。

ここの場の幸蔵こと鼠小僧に心情に心が痛んだ。それと同時に、三吉の幼いながらも健気な心が胸に沁みた。

芝居は元に戻るが、二幕目第三場の「元の辻番の場」も良い。

辻番の与惣兵衛が幸蔵に30年前に捨てた我が子について語り出す場面だ。盗癖のある子が生まれるとの言い伝えがある庚申の夜に授かり、また人相見からも盗人の相があると言われたため、臍緒書と大黒天の御影を入れた守袋を身に付けさせて息子を捨て子にした。だが、その息子が生きているならば、幸蔵と同じ年頃で、他人とは思えないと語る与惣兵衛。

その話が自分の身の上と重なり、また与惣兵衛の来し方を聞き、与惣兵衛が自分の父親ではないかと思う幸蔵は、心ならずも与惣兵衛を突き放し、その場を駆け去る。

この場面にもジーンと熱いものが胸にこみあげてきた。

平沢左膳実は稲葉幸蔵:尾上菊之助 刀屋新助:坂東巳之助 芸者お元:坂東新悟 杉田主膳娘おみつ:中村米吉 与惣兵衛伜与之助:坂東亀蔵 辻番与惣兵衛:中村歌六 お元弟蜆売り三吉:尾上丑之助 杉田若党本庄曾平次:河原崎権十郎 大黒屋抱え松山:中村雀右衛門