一龍斎貞寿「真柄のお秀」見目より心の美しさ。豪傑を産んだ母の可愛さ、賢さ、優しさ。

上野広小路亭で「講談協会 二月定席」を観ました。(2022・02・24)

一龍斎貞寿先生の「真柄のお秀」がとても面白かった。

女性は見た目の美しさも大事かもしれないが、心根の美しさもそれ以上に大切だということを教えてくれる。また、女性ながらも怪力の持ち主である下女のお秀がいたからこそ、豪傑の真柄十郎左衛門が誕生したのだという話は読み物としてとても面白い。

真柄刑部、25歳。文才に優れていたが、体が弱く、武芸では劣る。戦場では役に立たない。だから、常日頃から体の丈夫な嫁をもらって、自分の息子は豪傑にしたいと考えていた。

ある日、峠の宿場の宿に泊まる。そこで働く下女で、身の丈6尺、幅も6尺という大女がいた。名をお秀という。刑部はお秀が俵の山からヒョイヒョイと一俵ずつ物置に投げ込んで片づける様子を目撃してビックリした。さらに、風呂を焚くのに、薪を2本3本まとめて膝小僧で割る。すごい。

刑部は「こんな力持ちを嫁にすれば、さぞ丈夫な子を産むだろう」と気まぐれを起こし、お秀に求婚した。お秀は18歳。大女といえど、初心な乙女である。すっかりその気になって、夜の床に誘われたのを本気にしてしまった。

化粧をして(ここが可愛いではないか)、刑部の寝間に現れたお秀。その姿を見て、刑部は「こりゃあ、化け物だ!とんでもない!」と逃げ出してしまった。翌朝にはそそくさと宿を出て、何とか逃れられたと思ったが、そうではなかった。

諦めきれないお秀は、刑部の屋敷を探し当て、訪ねる。困った刑部は知り合いの家を泊まり歩き、しばらく自宅に戻らなかった。

それでもお秀の執念はすごい。刑部の主人の弾正が鷹狩に出たところを、直訴して、刑部の女房になりたいと願い出る。弾正は「これは面白い!」と、刑部に「夫婦になれ」と命じた。主人の命には逆らえない。祝言をあげた。

お秀は大変な貞女で、刑部に尽くし、二人の間には元気な男の子が生まれた。この子が後の真柄十郎左衛門で、本多平八郎と姉川の合戦で一騎討ちをしたという豪傑だ。

お秀の惚れた男を追いかける執念、そしてその男に尽くす可愛さと賢さと優しさ。女性にとって見た目の美しさ以上に大切なことを教えてくれる。