【壽 初春大歌舞伎】第1部「一條大蔵譚」大蔵卿の作り阿呆と常盤御前の貞女ぶり


歌舞伎座で「壽 初春大歌舞伎」第1部を観ました。(2022・01・20)

「一條大蔵譚」は、大蔵卿の“作り阿呆”が最大の眼目だろうが、常盤御前の貞女ぶりも見ものである。源頼朝の母である常盤御前は平清盛の妾になり、阿呆で名高い公家の大蔵卿の妻になる。さぞかし歯がゆい思いをしているであろうと、吉岡鬼次郎と妻のお京が潜入し、源氏再興の意思を確かめようとするが、そのだらしなさにあきれてしまう。

大蔵卿に媚びる上、夜もすがら楊弓遊びに興じ、源氏のことを思い出す素振りもない。鬼次郎は堪え切れず、お京と共に常盤御前の傍らに進み出て、弓を取り上げる。そして、義朝の情を忘れ二度三度と嫁入りする貞操の無さを詰る。

だが、常盤御前の本心は違うところにあった。仇の清盛に身を任せたのは、全て義朝の忘れ形見の三人の幼い兄弟を助けるためだったと打ち明ける。そして、楊弓に興じていると見えたのは、実は平家調伏を祈願して、丑の刻詣の心で矢を放っていたと種明かしをするのだ。その的の下には、矢に射抜かれた清盛の絵姿が!

常盤御前の真意を知った鬼次郎夫婦は非礼を詫びる。そして、常盤御前とともに、悲嘆の涙を流すのだ。何という、身の因果よ。

そこで、大蔵卿の作り阿呆の本性が現れるのだ。事の経緯を清盛に注進しようとした家老の八剣勘解由が駆け出すと、御簾の内から長刀が打ち出され、勘解由は倒れる。この長刀を持っていたのが、颯爽とした大蔵卿なのだ。

そして、大蔵卿の心底。大蔵卿は源氏の血筋であったが、仔細あって公家となり、源平の争いに巻き込まれないように、長年、作り阿呆をしていたのだ。しかし、今、その本性を明かすのは源氏の為だと言い、義朝の無念の最期を惜しみ、常盤御前は貞女の鑑と言って讃える。

前半は見事な阿呆ぶり。館に潜入したお京が見せた舞いを見て、床几から転げ落ちるほど喜び、召し抱えると言うところが大好きだ。そして、後半の凛々しい本性に、キリリと変貌するところにこの芝居の真骨頂がある。なにせ、常盤御前には指一本触れていないというのだから、実にカッコイイ。

残念だったのは、コロナの濃厚接触者として、常盤御前を演じるはずの扇雀と、お京を演じるはずの七之助が休演になったときの観劇だったことだ。急遽代演を勤めた歌女之丞、京蔵を労いたい。

一條大蔵長成:中村勘九郎 吉岡鬼次郎:中村獅童 鬼次郎女房お京:中村京蔵  常盤御前:中村歌女之丞