【プロフェッショナル 書店店主・岩田徹】運命の一冊、あなたのもとへ(4)

NHK総合テレビの録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 書店店主・岩田徹」を観ました。(2018年4月23日放送)

きのうのつづき

2月上旬、岩田がいつになく悩んでいた。隣町の中学校から、これまでにない選書の依頼が届いていた。生徒の利用が少ない図書室を刷新するため、16万2000円分の本を選んでほしいという。

岩田がつぶやく。

「こういうのを読みなさい」って提案してあげなきゃいけないんだ。

岩田に選書を依頼したのは、全校生徒160人の奈井江中学校。図書室の利用は年々減り、生徒が本に親しむ機会が少なくなっていた。

岩田が選書をはじめた。本を読む喜びを知ってほしいと、小説やエッセイなど人間ドラマが描かれたものを中心に選んでいく。

自分の周りにいないような大人というか、「過去にこんな人がいたよね」っていうようなことをね、学んでもらいたいというかね。「こんな大人になりたいな」っていう大人がもし周りにいないとしたら、本の中ででもいいから見つけてほしいよね。

だが、岩田は迷っていた。

僕が不安に思うのは、これを収めて、誰も手に取らなかったら、がっかりしちゃう。

岩田が読んでほしい本と中学生が手に取りたい本は違うかもしれない。岩田は中学校の図書室に向かった。本の大半は30年以上前に購入されたようなものばかりだった。岩田の想像以上に本は読まれていなかった。

本に親しんでもらうためには、平易なものから読み応えのあるまで、ジャンルも幅広く揃える必要がある。大切なのは、一冊の本と出会うことで、次の本へいざなう選書をすることだ。

翌日。岩田は選書した本を一から見直すことにした。今、書店にある本だけでなく、これまで読み、頭にインプットされた1万冊から吟味する。内容は勿論、文字の大きさや装丁の親しみやすさも考える。

本なんかなくてもいいやっていう風潮でしょ。同じような情報はスマホで得られるよとかっていうときに、「え?どうして本なの?」というふうに問いかけられているんだよね。

本を愛し、本を扱うことを生業とする者として伝えたい思い。「本は、人生の味方」。

岩田は、吉本ばななの「おとなになるってどんなこと?」を手に取り、「勉強しなくちゃダメ?」「友だちって何?」「普通ってどういうこと?」「死んだらどうなるんだろう?」といった項目を挙げて、

自分の先はずっと人生長いんだからさ、そこで何が起こるか分からないんだから、というふうに言ってあげないと。

3週間後、渾身の131冊が揃った。まず多く選んだのは、この30年間に出版され人気を博した作品。そうした中でも、今の中学生が親しみやすい設定や題材のものを選んだ。

例えば、「ビートたけし傑作集 少年編」。人生がうまくいかないときや、逆境から這い上がろうとするときにヒントになる本。

さらに本を読むのが億劫な生徒には、詩集。

(文章を)たくさん読むよりも、ちょっとした詩がホッと心に響いたときに、それを朗読してもらうと嬉しんだよな。

本を契機にして、自分の中の正しいことを見つけてもらいたい。

図書室に納入する岩田は生徒たちにこう言った。

遊ぶように読んでください。勉強じゃないんだから。面白くなかったら、やめていいし。面白いなと思ったら、ダーッと読んでいいし。本は皆さんの味方ですからね。

本は、人生の味方。生涯の友となり得る。自分の人生と重ね合わせて、読むことができる。そんな読書の魅力を伝える伝道師のような岩田さんの活動は素晴らしい。