【忠臣蔵の世界 神田松鯉・神田阿久鯉親子会】男の美学が光る「神崎の詫び証文」に、楽しい修業時代のエピソードトーク
江戸東京博物館小ホールで「忠臣蔵の世界 神田松鯉・神田阿久鯉親子会」を開きました。(2021・12・11)
人間国宝の神田松鯉先生とその弟子である神田阿久鯉先生の親子会形式で、ともに義士伝を読んで頂き、忠臣蔵の世界に浸ってもらおうと企画した会だ。間に、演芸評論家の長井好弘さんに加わってもらい、忠臣蔵をテーマにした鼎談。それに音曲師の桂小すみさんに忠臣蔵を題材にした音曲の高座を勤めていただいた。
師弟二人の講談は、阿久鯉先生が「安兵衛駆け付け」で笑いの多い高座を披露。松鯉先生は「神崎の詫び証文」で泣かせてくれたのだが、それに匹敵するくらい好評だったのが、鼎談だ。忠臣蔵がテーマのはずが、いつのまにか松鯉先生の修業時代のエピソードに展開し、「日本人はなぜ義士伝に惹かれるのか」なんていかにもNHK的な方向へ行かず、松鯉先生ペースで抱腹絶倒の笑いの絶えない鼎談になったのが良かった。人間国宝の楽しいおしゃべりも、長井さんや阿久鯉先生のフォローがあったればこそ。感謝です。
松鯉先生は毎年、末廣亭11月下席で10日間、トリを取って義士伝をネタ出しをしている。今年は以下のような並びだった。
21「殿中松の廊下」22「梶川与惣兵衛」23「大石東下り」24「神崎詫び証文」25「小山田庄左衛門」26「天野屋利兵衛」27「大高源吾」28「赤垣源蔵」29「鍔屋宗伴」30「義士勢揃い」
このラインナップは、ほぼ変わらないのだそうだ。変わるのは、「鍔屋宗伴」と「荒川十太夫」を隔年で交互に読むことくらいだとか。どちらも松鯉先生が速記本から起こしたものだ。いわばこの末廣亭10日間は松鯉先生のベストオブベストが掛かるという仕掛けだ。
阿久鯉先生が最初に松鯉先生から習った義士伝が「天野屋利兵衛」だそうだ。常日頃から松鯉先生が口にする「男の美学」が際立つ読み物である。「天野屋利兵衛は男でござる!」。阿久鯉先生は毎年末廣の楽屋で10日間聴いて、勉強しているそうだが、「毎年、受ける心持ちが違う」と言っていた。それこそが、義士伝の奥深さなのかもしれない。
いまや松鯉先生の十八番になっている「大石東下り」だが、服部伸先生が亡くなるまでは高座に掛けなかったそうだ。浪曲師として活躍し、その後に講談師に転向した服部伸先生の十八番だったからだ。
そこから、松鯉先生の本牧亭時代の思い出に話題が展開した。宝井琴窓先生は元弁士。楽屋入りすると、日本酒を2合ペロリと飲んで、勢いをつけて高座にあがる。「私も酒は大好きですが、さすがに高座前は…」(笑)。
松鯉一門は師匠以外はみんな下戸。「瀧川鯉昇一門が羨ましい」と思わず本音をポロリ。お酒の相手ができるお弟子さんを欲しがっているみたいです。松鯉先生の師匠、二代目山陽先生も下戸だった。「お汁粉、餡蜜専門だった」。
長井さんが話を忠臣蔵に戻すと、松鯉先生が「義士伝は体の一部です」。昔は40を過ぎないと、義士伝を読んではいけないと言われた時代もあったとか。
鼎談も良かったけれど、桂小すみさんの忠臣蔵バージョンの音曲高座も素晴らしかった。「槍錆び」の替え歌で、「白木の三方」。四段目の判官切腹の台詞を歌詞にしているが、こういう遊びを江戸から明治にかけて庶民はしていたのだ。奈良丸くずしで、大高源吾や赤垣源蔵を歌いこんだのも良かった。
最後に、どんどん節、駕籠で行くのはお軽じゃないか~を、小すみさんオリジナルで歌ったのも素晴らしかった。
♬寄席で遊ぶは長寿の秘訣 頭使って気も使ってお手も叩いて 笑って泣いて 金は天下の廻りもの~