柳家三三「火事息子」親不孝扱いした息子への父親の本当の気持ちとは

あうるすぽっとで「三三三席三夜」二日目を観ました。(2021・10・27)

柳家三三師匠の「火事息子」が胸に迫るものがあった。

一人息子の徳之助が臥煙になり、火事をきっかけに戻ってきたときの父親の複雑な気持ち。世間に顔向けできないからと一度勘当した息子を許すわけにはいかない。だが、蔵の目塗りでお世話になったのだから、お目にかかって御礼を言うのが筋だという番頭に諭され、裏口に控えた徳之助と会う。

身体中に彫られた刺青を隠しきれないまでも半纏を引っ張り、少しでも隠そうとする徳之助。竃の角に小さくなっている。「どなた様かと思ったら、あなた様でしたか。おかげさまでありがとうございます」。

徳之助が「お変わりなく、ご繁盛のようでお喜び申し上げます」と言うと、「人間、なまじ長生きするもんじゃないですな。見たくないものまで見なきゃいけない。随分、立派な絵が描けましたな」。

17歳で火消しになりたいと言い出したので、に組の親方に頼んで断ってもらい、他の組にも廻状を回した。19歳で家を飛び出て、臥煙になったという噂を聞いて、まさかと思っていたが、本当だったこと。

「お目にかかれた義理じゃないのですが」「お前にも義理がわかるのか?彫り物だらけの身体にして、世間様からは指を指されて笑われる」。小言の奥の方に、父親として隠しきれない愛情がにじみ出ているのがわかる。

それは徳之助が帰る段になったときに、着物は捨てればいい、捨てれば拾う奴がいる、と母親に言って、「いっそ、箪笥ごと捨てましょうか・・・お小遣いも捨てましょう」と言うのを暗黙に認めていることでわかる。

そしてまた、父親とは違う母親の愛情がこの噺に深みを増している。この子(徳之助)が火事が好きになったのは、お前さん(父親)のせいじゃないですか、と責めるところだ。江戸で三本の指に入るお店が、息子を乳母で育てなかったら恥をかくと言って、火消しの伝吉の未亡人のお崎を乳母にしたのがいけなかったと言う。

お崎は火事が好きで、幼い徳之助をほったらかしにして火事を見にいってしまう。それを注意すると、徳之助をおんぶしたまま屋根の上に昇ってしまう。おもちゃとして買い与えるのも、梯子や纏。それをそのままにして、店のこと一筋の父親は帳場でパチパチと算盤を弾いている。それじゃあ、あなたが徳之助を臥煙にしたと言っても仕方ないじゃないかと。

いつの世も、仕事熱心で育児は任せきりの父親というのはいるものだ。親子の本当の愛情とは何か。考えさせられる名演だった。