【プロフェッショナル 鮨職人・小野二郎】修業は、一生終わらない(4)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 鮨職人・小野二郎」を観ました。(2008年1月8日放送)

きのうのつづき

小野二郎は故郷・静岡にいた。楽しみにしているイベントがあった。小学校の同窓会だ。小学校しか出ていない二郎にとって、唯一のクラスメートと会える。下戸の二郎もお茶で乾杯した。

同窓生のうち、すでに半分の仲間が亡くなっていた。この日に集まった20人の中で現役で働いているのは二郎ただ一人だ。年々参加者が少なくなり、これが最後の同窓会になることが決まっていた。

82歳の今も現場に立ち続ける二郎。しかし、体には不安も抱えている。70歳のとき、魚河岸の帰りに狭心症の発作に襲われた。79歳のときは甲状腺にガンが見つかり、摘出手術をした。今、医者からは心臓にペースメーカーを入れることを勧められている。

二郎が言う。

まだ歩けるし、走れるし、仕事もできるし、大丈夫ですよ。ガキのときから、ずーっと働いているから、遊ぼうなんて気は全然ない。

今、仕入れや手当ての仕事は弟子や息子に任せている。鮨職人としての引き際、そのことは常に頭の片隅にある。

私が理想としているのは、「あれ、この頃、オヤジ見ないな、どうしてんだ?」と思われるくらいに退きたいとは思っています。これは長男に言っていることなんですけど、「きょう、オヤジ、どこへ行ったんだい?」というくらいに退きたいと思います。「はい、きょうから辞めます」と宣言して辞めるんではなくて、そういう辞め方をしたい・・・でもその前に死ぬんじゃないかな(笑)

去年11月、二郎にとって特別な出来事が2つ控えていた。一つはフランスの伝統あるミシュランガイドの東京版の評価の発表。「すきやばし次郎」がいくつの星を獲得するのかに世間の注目が集まっていた。

しかし、二郎にはもっと大事なことがあった。終生のライバルが店に来ることになっていた。フレンチの帝王と呼ばれる三ツ星シェフ、ジョエル・ロブション。

二郎が言う。

あの人ぐらい味に敏感な人はいないんだよね。すごい敏感なの。私らは、あの敏感さを学ばなきゃいけないと思う。あのくらいの人だったら、勝負してもいいな。

11月19日。ミシュランの発表。「すきやばし次郎」は星三つで、最高の評価を受けた。と同時に、世界最高齢の三ツ星シェフという栄光に輝いた。

その翌日、二郎はいつも同じ時間に店に姿を現した。ロブションの予約は午後1時。自分の腕はまだ衰えていないか。ロブションはそれを確かめる最高の相手だ。

フレンチを極めた男と鮨を極めた男が1尺5寸のカウンター越しに向き合う。

最初に出てきたのはヒラメ。

そして、旬を迎えた津軽海峡のマグロ。脂の乗りは申し分ない。

温度にこだわったクルマエビ。

柔らかく握った蒸しアワビ。

偉大なシェフを前にしても、二郎の仕事は何も変わらない。

最後の勝負は自慢のアナゴ。

ロブションが口にした。「日本に来て一番楽しいのは、ここで過ごしているときです」。

そして、帰り際に二郎に掛けた言葉は「三ツ星ですけど、(二郎さんには)本来そんなの必要ないですものね」。

二郎「親分に負けないように頑張ります」

ロブション「私の方が二郎さんのレベルに達するように頑張ります」

小野二郎にとって、プロフェッショナルとは?

自分の仕事に没頭して、さらに上を目指す。今で止まるんじゃなくて、もっと上を目指すということじゃないかなと思います」。

修業は、一生終わらない。