玉川奈々福「シコふんじゃった」楽をして、ズルをして生きるよりも、一所懸命頑張って得るものが何百倍も尊いのだ

江東区亀戸文化センターカメリアホールで「奈々福なないろ」を観ました。(2021・09・18)

長編浪曲一挙口演「シコふんじゃった」である。原作は周防正行監督作品の映画。これを周防さんから「浪曲にしてよ」と頼まれ、「続きモノにしてよ」とリクエストされ、奈々福さんが奮闘して作った浪曲である。三席構成になったものを一挙に口演した。素晴らしかった。正直、僕は一席目ができたときに、その初演を聴いているのだけれど、「これ、面白くなるのかなあ」と心配だったのだけれど、心配ご無用だった。三席を続けて聴くと、いやあ、面白いというだけじゃなくて、感動しました。そりゃあ、そうですよね。周防監督が作られた傑作映画が原作ですし、この映画は第35回ブルーリボン賞作品賞、第16回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞しているんだもの。でも、それを浪曲として素敵な作品にした奈々福さんもすごいです。

卒業のための単位と引き換えに、廃部寸前の弱小相撲部に入ることになった大学生、山本秋平の奮闘を描いている。大学生活をチャラチャラ過ごして、就職もコネで安定した企業に決まり、世の中お気楽に生きていた男の価値観をいい意味で大きく揺るがした、と言えばいいんでしょうか。そんな周防さんのメッセージがちゃんと伝わってきた。

一席目では、関東大学リーグの三部リーグでも一番弱い相撲部が何とか、にわか部員を集めてリーグ戦に出場するんだけど、他の5校にコテンパンにやられて、全敗という成績の最下位。もう情けなくてしょうがない。顧問をしている穴山教授は元学生横綱にもなった人で、それはそれは歯痒いでしょう。沢山集まったOBにも、恥を知れ!と屈辱的になじられる。そこで、主人公の秋平が悔しくなって、「よし!勝ってやろうじゃねえか!」とハートに火が付いたというところまで。

二席目はその3カ月後に控えたリーグ戦に向けて、猛稽古がはじまった。ジョージ・スマイリーというアメフトで鍛えた体を持った留学生も加入。テレビ局の取材も入り、「廃部寸前!名門相撲部、復活への道」という特集企画まで編成される。女の子が稽古場に応援に来る。もう、稽古に熱が入らないわけない。何も自身がなくて、ただ108キロと太っているだけの田中豊作も、緊張して試合前になると下痢を起こし不戦敗ばかりしていた八年生の青木富夫も、みんな少しずつ自信をつけ、人間的に成長していくところがいい。

単位のためじゃない、勝つために相撲を取るんだと秋平も思いはじめ、絶対に勝つんだと稽古に励む。東北山形での夏合宿では、ちびっ子相撲と対戦し、「体力がある者が勝つとは限らない」という相撲の魅力もわかってくるのが素敵だ。

三席目。そのリーグ戦ではあれよあれよと言う間に優勝してしまう。まぐれもあっただろうが、彼らの人間的成長と無関係ではないように思う。だが、翌日には二部リーグ最下位との入れ替え戦が。そこでも、彼らは奮戦し、奇跡は起こる。秋平は思う。楽をして、ズルをして生きていくのはやめた。もう一年、相撲をやろうかな。それを見ていた、マネージャーの夏子の一言が印象的だ。「私もシコ踏もうかな」。

1992年公開の周防正行監督「シコふんじゃった」は、当時リアルタイムで観て非常に優れた作品だと思ったのを覚えているが、今回の奈々福さんの浪曲を聴いて、もう一度、DVDで映画を観てみようと思った。