【柳家喬太郎 新作も昔は古典だった】「芝カマ」
鈴本演芸場で「新作も昔は古典だった」九日目を観ました。(2021・07・19)
柳亭左ん坊「道具や」/柳家小んぶ「棒鱈」/ペペ桜井/林家彦いち「熱血!怪談部」/柳家さん喬「長短」/林家二楽/柳家わさび「亀田鵬斎」/入船亭扇辰「茄子娘」/中入り/ニックス/蜃気楼龍玉「もぐら泥」/ダーク広和/柳家喬太郎「芝カマ」
時代を先取りした作品と言っていい。落語をあまり知らない人でも「芝浜」を知っている人は多い。その感動を超える感動を与えてくれたのが、この「芝カマ」である。同性愛者を揶揄したものでは決してなく、寧ろ、それを世間に啓蒙し、認められる社会を作っていこうという思いを感じた。
魚勝を起こすのは、女房とは少し違う同棲パートナーである男性だ。お前さんは日本一、いや世界一の魚屋だと持ち上げて、河岸に行ってもらう。42両の入った財布を拾ってきた魚勝は、これで贅沢三昧ができる、お前も紅をさして、着物も簪も買ってやるというが、パートナーは「一生懸命働いて稼いだ金で真面目に暮らそう」と諭す。「なんなら、自分が働きに出てもいい」と言う。だが、魚勝は言う事を聞かない。バカ!これはオレしか言えないバカ!なんだ、と。
パートナーは意を決して魚勝に言う。今まで蓄えで暮らしてきたとでも思っていたのかい?借金をして、お米もお酒も買ってきた。世間は私たちを色眼鏡で見る。カマが金を借りにきたという。いくら愛し合っていても、世間はそういうものなんだ。どうするんだい?この借金を。
42両があるじゃねーか、と言う魚勝に、それはお前の見た夢だとした。魚勝はパートナーの言葉に納得した。「俺はお前のために生きていける」。たがが外れていやしないか?パートナーは「大丈夫」を3回繰り返して、お前さんは世界一の魚屋なんだからと背中を押した。
3年後の夏。仕事から帰ってきた魚勝は麦湯を飲む。暮らしが楽になったことを二人で振り返る。借金は3カ月で返済できた。「お前がいたから、3月で返せた」。お互いに指でおでこを突き合う。「お前!」「ヨセヨ!」。お陰で魚屋が天職とわかった。これしかできないけど、誰にも負けない。
ここでパートナーは42両の入った財布を見せる。そして、告白。「お前さんが駄目になっちゃうんじゃないかと怖くなっちゃって」。夢にしたという真実を伝える。「お前さんが真面目に働いてくれて、この人についていこうと思った」。
そして、大事なことをパートナーは言う。「世間はもう後ろ指を指さない。ああいうのも、いいよねって。やっと皆が認めてくれるようになった」。
そして、続ける。「優しくしなくていいんだよ。冷たい目の奥にお前の愛がある。お前のことを一番分かっているのは、俺なんだ」。
酒を用意した。魚勝が飲む。そして、「俺が注いだんだから、飲めよ」。互いに飲む。
と、突然、パートナーが切り出す。「お前を卒業するわ」。抵抗する魚勝は「お前がいないと魚屋を続けていけない。これからも罵ってくれよ」。しかし、パートナーは「あばよ」と言って、外へ出る。青い空と白い雲。
「いいんだよ。元々、俺たちは夢だったんだよ」。
最後は涙がこぼれる、キュンとするようなサゲだ。男性二人の純愛物語。喬太郎師匠のセンチメンタルな演出に拍手喝采だった。