【プロフェッショナル 高倉健スペシャル】生き方が芝居に出る(上)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 高倉健」を観ました。(2012年9月8日放送)

高倉健さんが亡くなったのは2014年11月10日だから、およそ2年前の放送になる。この番組で密着取材が許された映画「さよなら」が遺作となった。そのとき、81歳。ある種の覚悟ができていたのかもしれない。映画界の伝説、日本中の心を揺さぶってきた俳優。寡黙にして圧倒的な存在感で、真っ直ぐな男を演じる高倉健さんの素顔は厚いベールに包まれてきた。映画俳優として56年間生き続けてきた男が、6年ぶりの映画撮影に臨む。その姿を異例の密着取材でカメラが追った。「高倉健という生き方」に改めて共鳴する番組だった。記録に残しておきたい。(以下、敬称略)

映画の舞台は長崎平戸である。妻に先立たれた刑務所に指導教官は、妻の遺言に導かれて生き方を変えていく。その頑なな男の役を高倉は演じる。妻が「故郷長崎で散骨してほしい」と遺した手紙で、何を伝えたかったのか。人生で本当に大切なものとは何かに気づかされる男の役である。

高倉のスタンスは、撮影現場でほとんど座らない。座るとファイトがなくなるような気がするからだという。映画の佳境となるシーンの撮影の日を迎えた。街はずれの写真館で偶然妻の姿を見つけ、湧き上がる感情を表現する場面だ。最小限の台詞で思いを感じさせる演技。高倉の真骨頂だ。何より大切にしているのは、自分の心をよぎる本当の気持ち。こみあげる思いが本物なら、自ずと滲み出てくると考える。

高倉は語る。

何か分かんないで泣くとか、よく言いますよ。でも分からなくないんだろうね。本人は何かあるんだろうね。ここへつながる何かが。そういうものが多分。この空気とか風とか景色とかにあるんじゃないですか。鳥肌が立つ思いのときがありますよ。

本番を演じるのは基本、一度だけ。一度きりを生きる。台詞は一言しかない。「ありがとう」。それを一気に演じ切った。感情が高ぶった。

自分の中で感じられないことってできないよね。心の話だからね。やっぱり自然によぎっていくものじゃないのかね。よぎらないんだけど、よぎっているように見せるというのがお芝居なのかもしれないけど、映画は違うっていう気がするね。映画はやっぱりそうじゃない。本当によぎらないと。僕は同じことを何回もやれって言われたら、絶対できないよね。たぶん最高のものは1回だなって。黒澤監督でもおっしゃっていたって言うから。僕は絶対そうだと思いますね。

テクニックを排し、現場に身をさらして、こみあげるものを感じる。飾り気のない現場を貫いてきた。高倉が肝に命じていること。それは、生き方が芝居に出る。

本人の生き方かな。生き方がやっぱり出るんでしょうね。テクニックではないんですよね。柔軟体操も毎日いいトレーナーについてやっていれば壊さないで柔らかくなる。本を読んで勉強すれば、ある程度の知恵もつくよね。でも、その生き方というのは、たぶん一番出るのがその人の普段の生き方じゃないんですかね。偉そうなことを言うようですけど。

「網走番外地」をはじめ、若い頃の高倉は持ち前の気性を生かして、荒っぽい任侠モノを演じていた。しかし、「八甲田山」「鉄道員」など、次第に自分の持ち分を全うする役を演じるようになる。役を演じ、その役に生き方を教わる。そんな俳優生活を50年以上続けてきた。

高倉は語る。

一番勉強させられているのは俺かもしれないね。こういうのがいい人間ということだよということをずっとお金をもらいながら、教わってきたのかも分からないよね。ぼく、悪い役やってないもん。だから信じてますよ。やっている役はみんな好きになる。

高倉は酒を飲まない。煙草も30年以上前にやめた。朝しっかり食べると、夜までほとんど食べない。体重は70キロを超えないで、ベストを保っている。マウスピースを入れてウォーキングし、目を覚ます。身体は唯一の資本だからという。心と体を最高に保つ秘密がここにある。

つづく